Too late
宴が始まり数時間。
呑むペースの早いジウォンたちと、ちびちびと呑むのが好きな私たち。
空き缶と瓶が彼らの前を占領している。
その日みんなの気になる話題と言えば、もっぱらシウに関して。
こんな豪邸を見せられたら、彼の日常に興味が抱かずにはいられなかった。
詳しく家庭の内情を知る私でさえ驚きの連続だからジウォンなんて「ずっと夢の中いるみたい」と言う程の衝撃を受けている。
彼女のお気に入りのドラマ、近ごろは私も見るようになったそれに令嬢がヒロインの恋敵として出てくる。
自分には縁のない暮らしぶりが描かれた劇中の演出を「こんな世界もあるんだ」と、受け入れていた。
しかし、この家に来てから“本物”が自分のすぐ傍にあるのを目の当たりにしたら、すんなりとは飲み込めなかった。
親友たちがこの風景の中にいることに強烈な違和感。
不思議な感覚に包まれながらやり過ごしたのち、トイレを借りて洗面台に立った時、手を洗いながらふと顔をあげたら鏡の中の私がバスルームの空間で妙に浮いていた。
国外での仕事でホテルステイをしたときみたいな、馴染んでいない感じ。
自分が部外者じゃないことを分からされて、怯む。
傍観する分には楽だった。
私から見てここ住む彼はすっかり場に馴染んでいる。
まるでこの家で生まれ育ったかのよう。
私たちと彼との間にある縮まらない距離を感じ、皆のもとへ戻った。
幼馴染みが数分前までとは別人に見えて少しかしこまってしまう。
彼は日々の愚痴を話している。
お抱えの専属秘書から教育を受け、その人と過ごす時間が多いんだとか。
秘書からしたら代表の息子だし、すごく気を遣われて逆にこっちが気疲れすると言っていた。
秘書さん、ヘマをできない相手の教育係って立ち回りが大変そう。
出会ったばかりの人なら特に、表情の読みづらいシウの様子を伺うのに労力を要しているだろう。容易に想像がつく。
彼がよくしているどこか遠くを見て物思いにふけている顔、実際には何にも考えてなかったりする。
ジウォンが「私たちと話してるとこを見せたら、秘書さんも気楽に話せるようになりそうだよね」と言った。
一理ある。
その後もジウォン記者たちの質問攻めは続く。
今思えば一般家庭ではあり得なかった、という話が何個もあると言った。
一番はNY留学中の部屋が普通の大学生は住まない地域だったこと。
マンハッタンに通学する学生も同じNY州内のクイーンズやブルックリンに住むのが一般的。
電車で一時間半はかかる距離にあるニュージャージー州に住んでいる人も多い。
それだけ家賃が高いからだ。
彼はマンハッタンの中でもアッパーイーストサイドという高級住宅地のアパートを借りていた。
その地区がどんな所か、NY育ちの彼は知らないはずもなかった。
勝手に決められた部屋の住所を見て、家賃は大丈夫なのかと両親に尋ねたら「治安をお金で買ってる」と言われて納得したらしい。
そこで疑いそうなもんだけど、シウって案外抜けているから。
アパートのご近所さんもそれなりの職業の人ばかりで安全。
管理会社の担当者も入居から良くしてくれたが、妙に「普段何してる人なの?」とか、パーソナルなことを聞いてきた。それもきっと、働いている様子のないアジア人の若い男が一人暮らししていることが不審だったからだと言う。
退去間際に家賃を聞いたら「4500ドル」と言われて、彼は言葉を失い、その様子をみた担当者も家賃を知らずに住んでた彼に絶句したそうだ。
私たちも彼の鈍感さに絶句する。
「オッパって、偏差値は高いんだろうけどちょっと馬鹿だよね」
「......ぶっちゃけ、その自覚はある」
「いや、自覚あるんかい。騙されないように俺らが傍にいないと」
「留学行きの飛行機もファーストクラスだったんだ......」
「行きから全然普通じゃないじゃん! さすがに気づけ!」
私が仕事で飛行機に乗るときは、安全面も考慮して基本的にビジネスクラス以上だけど、ファーストクラスになるまでは時間がかかった。
先輩たちが、世界ツアーですぐにマイルが貯まると言っていたり、エコノミーからファーストクラスに上がるまで2年もかからなかったと自慢する人もいたり、飛行機って成功を測れるバロメーターだと個人的に思っている。あと滞在先のホテルのランクとか、必要経費にお金をかけれるって何よりも成功を体感することかも。
「ファーストクラスなんて私が乗れるようになるまでに何年かかったと思ってんの......」
呆れ気味の私を見て困ったように「もうやめよ」と話を中断した。
呑むペースの早いジウォンたちと、ちびちびと呑むのが好きな私たち。
空き缶と瓶が彼らの前を占領している。
その日みんなの気になる話題と言えば、もっぱらシウに関して。
こんな豪邸を見せられたら、彼の日常に興味が抱かずにはいられなかった。
詳しく家庭の内情を知る私でさえ驚きの連続だからジウォンなんて「ずっと夢の中いるみたい」と言う程の衝撃を受けている。
彼女のお気に入りのドラマ、近ごろは私も見るようになったそれに令嬢がヒロインの恋敵として出てくる。
自分には縁のない暮らしぶりが描かれた劇中の演出を「こんな世界もあるんだ」と、受け入れていた。
しかし、この家に来てから“本物”が自分のすぐ傍にあるのを目の当たりにしたら、すんなりとは飲み込めなかった。
親友たちがこの風景の中にいることに強烈な違和感。
不思議な感覚に包まれながらやり過ごしたのち、トイレを借りて洗面台に立った時、手を洗いながらふと顔をあげたら鏡の中の私がバスルームの空間で妙に浮いていた。
国外での仕事でホテルステイをしたときみたいな、馴染んでいない感じ。
自分が部外者じゃないことを分からされて、怯む。
傍観する分には楽だった。
私から見てここ住む彼はすっかり場に馴染んでいる。
まるでこの家で生まれ育ったかのよう。
私たちと彼との間にある縮まらない距離を感じ、皆のもとへ戻った。
幼馴染みが数分前までとは別人に見えて少しかしこまってしまう。
彼は日々の愚痴を話している。
お抱えの専属秘書から教育を受け、その人と過ごす時間が多いんだとか。
秘書からしたら代表の息子だし、すごく気を遣われて逆にこっちが気疲れすると言っていた。
秘書さん、ヘマをできない相手の教育係って立ち回りが大変そう。
出会ったばかりの人なら特に、表情の読みづらいシウの様子を伺うのに労力を要しているだろう。容易に想像がつく。
彼がよくしているどこか遠くを見て物思いにふけている顔、実際には何にも考えてなかったりする。
ジウォンが「私たちと話してるとこを見せたら、秘書さんも気楽に話せるようになりそうだよね」と言った。
一理ある。
その後もジウォン記者たちの質問攻めは続く。
今思えば一般家庭ではあり得なかった、という話が何個もあると言った。
一番はNY留学中の部屋が普通の大学生は住まない地域だったこと。
マンハッタンに通学する学生も同じNY州内のクイーンズやブルックリンに住むのが一般的。
電車で一時間半はかかる距離にあるニュージャージー州に住んでいる人も多い。
それだけ家賃が高いからだ。
彼はマンハッタンの中でもアッパーイーストサイドという高級住宅地のアパートを借りていた。
その地区がどんな所か、NY育ちの彼は知らないはずもなかった。
勝手に決められた部屋の住所を見て、家賃は大丈夫なのかと両親に尋ねたら「治安をお金で買ってる」と言われて納得したらしい。
そこで疑いそうなもんだけど、シウって案外抜けているから。
アパートのご近所さんもそれなりの職業の人ばかりで安全。
管理会社の担当者も入居から良くしてくれたが、妙に「普段何してる人なの?」とか、パーソナルなことを聞いてきた。それもきっと、働いている様子のないアジア人の若い男が一人暮らししていることが不審だったからだと言う。
退去間際に家賃を聞いたら「4500ドル」と言われて、彼は言葉を失い、その様子をみた担当者も家賃を知らずに住んでた彼に絶句したそうだ。
私たちも彼の鈍感さに絶句する。
「オッパって、偏差値は高いんだろうけどちょっと馬鹿だよね」
「......ぶっちゃけ、その自覚はある」
「いや、自覚あるんかい。騙されないように俺らが傍にいないと」
「留学行きの飛行機もファーストクラスだったんだ......」
「行きから全然普通じゃないじゃん! さすがに気づけ!」
私が仕事で飛行機に乗るときは、安全面も考慮して基本的にビジネスクラス以上だけど、ファーストクラスになるまでは時間がかかった。
先輩たちが、世界ツアーですぐにマイルが貯まると言っていたり、エコノミーからファーストクラスに上がるまで2年もかからなかったと自慢する人もいたり、飛行機って成功を測れるバロメーターだと個人的に思っている。あと滞在先のホテルのランクとか、必要経費にお金をかけれるって何よりも成功を体感することかも。
「ファーストクラスなんて私が乗れるようになるまでに何年かかったと思ってんの......」
呆れ気味の私を見て困ったように「もうやめよ」と話を中断した。