Too late
 お酒がまわってきたら頭を使わなくて済む話ばかり。
 1年ぶりに過ごす4人での時間は、とにかく楽しくて話が尽きない。
 3人の時も充分に大はしゃぎしていたし、彼がいなくたって何も変わらないと思っていた。
 しかし、彼の存在は私たちにとって思ったよりも大きかったようだ。
 4人の空気感ってもちろん居心地はいい。
 ただ、その空気がとりたてて“特別“なものではなく、昔からずっと在って変わらないものみたいに当たり前に私たちの中に存在する。
 3人でいた記憶にもいなかったはずの彼も居たかのように補正してしまう。
 欠けていたパーツがようやくぴったりとハマった、そんな感覚。
 私の前でも思う存分にバカ騒ぎしている風に見えたけど、シウ不在の間は彼らもセーブしていた。
 このメンバーだと特にシウの言葉数は減るし、喋ってることも2人の饒舌な語りに被って掻き消され、主張は弱め。
 そんなシウが居るからこそ彼らは遠慮がなくなる。
 ただの空気かと思っていたら酸素そのものだった。
 2人は水を得た魚のごとくイキイキしている。
 この幸せな空間にテンションが上がりに上がっていて、ボディータッチもするし、友達以上の距離。
 見かねたシウが「今日が交際1日目?」とジャブを打つ。
 すっかりアルコールがまわっているのをいいことに大胆だ。
 
 ふたりは速攻で体を離した。本当に分かりやすい。
 表情も素に戻っている。
 この人たち、まさか触れあいたくて酔ったフリしてたんじゃないか。

「俺らよりもまずは2人っしょ」
 ふてくされているチョルス。

「なんで話こっちに飛んでくる?」

「いや、もどかしい。ちょっとイライラする」
 ジウォンも何故だか不服そう。

「こっちのセリフな」
 チョルスがそう吐き捨てたら、無音が場を支配する。
 こんなに広いのに、窮屈だ。

「俺は......最終的に俺を選んでくれたら、それでいい」

 シウは沈黙を破る。
 躊躇なく爆弾発言を放った。彼を凝視する。
 
「もうそれプロポーズじゃん!」
「きゃー!シウオッパ~!」

 頭がぽーっとして膜が張ったように外野の冷やかしの声もくぐもる。
 私が見ていることに気づいているはずなのに彼は真っ正面を向いてなに食わぬ顔。
 
「ユリ、返事は! 返事!」

 さんざん茶化し終えた彼らは私に注目する。
 これって大事な局面かも……
 もう何杯飲んだかわからないチャミスル。
 半分残ったグラスに手を添えたまま、じっと考える。
 私も結構酔っちゃってるなあ。
 
「きっと後悔するよ」

「……」

「なんだそれ」「どういうこと?」

「んー、私ってわがままだから」

「わがままな女ほど可愛いってよく言うじゃん」

「そんなわけないよね? ジウォンみたいに自立してて周りに気を配れるお姉さんタイプの子が良いよね? チョルス」

「俺!? ん~。まあ正直好きな子にはちょっと振り回されたいかもな」

「だろ? 逆に俺以外の男は振り回さないでほしいくらいだよ......」

 切実な訴え。
 顔色は変わらないけど、シウも酔ってる......?

 対処に手間取る私を誰かからの着信が救う。
 伏せていた携帯、裏返すとPDの名前。
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