Too late
動き出す
 コラボ活動開始。
 前々日から、公式ユーチューブやSNSでの宣伝、事務所の最寄り駅には大きな広告を掲げて注目を集めた状態で活動初日を迎えた。
 音源のみの公開で主要音源チャートで首位を取ったこともあり、事務所の期待は大きい。
 私の力は弱くても、ジョンヒョンオッパの巨大ファンダムで音楽番組での1位も狙えると会社の人たちは見ている。
 音楽番組は早朝に始まりリハや事前収録が合間にあるだけで生放送まではとにかく暇だ。
 その途中にもオッパはテレビ局からテレビ局へと移動して他のスケジュールをこなす。
 何度も出ては戻ってを繰り返すオッパを横目に私はずっと携帯と遊んでいる。
 友達とカトクをして、返事を待つ間は動画を見ての反復行動。
 カカオトークのトーク一覧上部を独占しているのはジウォン、チョルス、シウ、そしてこの4人でのグループチャット。
 グループ名は“E4”。
 あの有名な恋愛ドラマのF4に因んでジウォンが付けた。
 原作のF4は“花の4人組”の意でその名を付けられたそうだが、私たちがなんでFじゃなくて”E”なのかというと、単純に成り損ないだから。
 高2の夏休み期間、4人で一緒にあのドラマを見た。
 ジウォン、チョルスが実況を入れてたいそう騒がしい観賞会だった。
 学園ラブストーリーなんて当時高校生の私たちが盛り上がらないわけがない。
 現実味がなさすぎて男子陣が「これはないよ」と茶々を入れて、ジウォンがキレていたのを鮮明に覚えている。
 なんだかんだ言いながらも皆してハマって、夏休み中には全話を見終わった。
 グループチャットを作成して1年、ずっと“グループ名募集中”だった名前がようやく“E4”と名を冠した。ジウォンは、いつか皆が夢を叶えたときにF4にランクアップすると言っている。

 不思議なものでE4を動かしながらも個人間でもチャットをする。
 さすがにグループと個人で、会話内容は違う。
 ジウォンはとチョルスはグループチャットでまたシウの家に行きたいと言っている裏で、揃ってシウの話を私にしてくる。
 最初は口裏を合わせている気がしたが、違うタイミングで似たようなことを聞いてくるところを見ると自発的にやっている。
 2人が言った。
 シウが私のことをべた褒めしていた、と。
 あの日、私が帰ったあと、シウはスイッチが入ったようにお酒のペースを上げたそう。
 私が居たときまでは控えていた。
 シウもそう強くはない。ふたり曰くべろべろに酔った彼はちょっと口が悪くて面白らしい。
 私にもその姿、見せてくれたっていいのに。
 それから両親に対する愚痴や日頃の憂さ晴らしをしていたが急に静かになって私のことを言い出した。
 その内容が細かに2人から送られてきた。
 字面を見ただけで赤面してしまうような恥ずかしいことまで彼が言っていた。
 撮影のヘアメイクのままでカジュアルな服を着た私を、自分では見慣れなくて変だと思っていたのに彼は気に入っていたようだ。

 フルスクリーンでバラエティを見ていると新着メッセージが上部に出てきた。
 ジウォンから何かの画像。
 トーク画面を開くとシウとのトークのスクリーンショットだ。
 ジウォンがとある動画リンクを送ったことから始まっている。
 それは、2日前に世に出た私のコラボ活動の予告動画だった。
 記された時刻はAM1時。その動画が公開された1時間後。
 数分後には返信がきていた。
【もう見たし嫌なもん送ってくんな】
【ジョンヒョンオッパめっちゃかっこよかった!】
【アイドルだし当たり前だろ。だけどユリはこういう人好みじゃないよ。】
 ジウォンの煽りが効いている。
 シウも子供みたいなところ、あるんだ。
【私も好みてわけじゃないけどそれでもかっこいいと思った!歌もすっごくうまいし王子様みたいだよね!】
 ジウォン、別にジョンヒョンオッパのファンじゃないだろうにわざと褒めちぎっている。
【うるさ】
 彼のシンプルな回答に、ついフッと鼻で笑った。
 傍で同じく携帯を見ているメイクさんに気づかれて、「いや、なんでもない」と答える。
【あんなかっこいい人に目の前で歌われたらユリもときめくだろうね!】
【は?文字だけなのにうるさい。ガキがよ。】
 シウ、私の前とキャラが違い過ぎる。
 あの日をきっかけに仲をより深めたようだ。
 会話が兄妹みたいで微笑ましい。
 私にもこういう風に接してほしい。
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