Too late
「今週の1位は......」

「ユリ・ジョンヒョン”夏の足音”でーす! おめでとうございます」
 意識なく、手を叩き始めた。
 発表とともに爆竹の破裂音と打ち上げられた銀テープが降ってくる。
 司会がさっと前に現れ、トロフィーを渡されてようやく1位をとったのは自分たちだと気づいた。
 彼を確認する。
 本当?と目で訴えかけると、片手をあげてハイタッチを求めた。
 後ろから近づいたスタッフにマイクを渡される。

「受賞コメントをお願いします」

 受賞コメント、何も考えていなかった。
 あわあわしながら彼とどっちが話すかをなすりつけ合う。
 もういっちゃえ!
 勢いだけでマイクを両手に持つ。
 
「ありがとうございます。まず、作曲してくださったリクPDとチームの方々。YUのスタッフの皆さん、私の大事なファンの皆さんもいつもありがとうございます。そして何よりも一緒に歌ってくれるジョンヒョンオッパ! 心から感謝しています。一緒に活動できて本当に嬉しいです」
 思ったことをそのまま、口に出した。
 そのあと彼もコメントを言っていたけど、自分の番が終わってホッとしたら頭を動かす余裕はなくなった。
 彼のコメントに頷く様子をみせながらも頭は真っ白。
 夢心地でアンコールステージを終えた。
 廊下では2人のスタッフたちが待ち構え、私たちを迎えて拍手と祝福の言葉を送る。
 ありがとうございます、と頭を何度も下げる。
 ユリ、と名を呼ばれて振り向いたら彼が腕を私に広げている。
 それに応えると、背中を軽くポンポンと叩く。
「本当によく練習したね。YUコンサートの時と別人みたい。おつかれさま」
 彼の労いに目頭が熱くなる。
 オッパが私の歌い方に関して触れたことはなかった。
 単に興味がないのだと思っていた。
 しかし、実際には私が歌い方を変えてからちゃんと歌いこなせるようになるまで何も言わずに見守ってくれていたのだ。
 新しい自分を手に入れて、おまけにちゃんとした成績まで残せた。
 これが彼の人気のおかげだと言われたら否定はできない。
 だけど今の私は、自分の努力も認めてあげられるだけの自信を持っている。
 初めて1位をとった時と同じか、それ以上に胸がいっぱい。

 帰路につき、送迎車の中で携帯を開くと暖かいメッセージが目に入る。
 通知欄には両親をはじめ、友人たちの名が並ぶ。
 返信せずとも勝手に流れていく通知欄がこの状況が幻ではなく現実だと教えてくれる。
 自惚れてしまいそう。
 一旦画面を閉じ、窓をあけて車の外へと視線をやって頭にこもった熱を逃がす。
 新たなメッセージの通知音が私を呼び戻した。

シウ【おめでとう。頑張ったね。】

 たったそれだけ。
 二言三言から、彼の気持ちを汲み取る。
 【ありがとう!私頑張ったんだよ!】と返した。
 ”E4”のグループチャットではジウォンが受賞コメント中の画面キャプチャーと共に祝福してくれている。
 リクPDやシエン先輩からも連絡が来ている。
 シエン先輩には何度か相談した。
 今までになかった新しい私を見せて、聴衆に違和感を感じさせすに良いギャップだけを与えたいという想い、彼には打ち明けていた。
 先輩は優しいだけじゃないアドバイスをくれた。
 遅かれ早かれ、いつかはこの壁を乗り越えないといけないタイミングが来てたんだよ、と。
 それに、結果がすぐに出なくても努力は絶対に無駄になんてならない、という激励。
 先輩は【ユリならうまくやれると思ってた】と言ってくれた。
 優しいけど強くてかっこいい先輩。
 尊敬する人から褒められると嬉しさと同時に、たったこの言葉だけで私の自信に繋がる。
【もっと頑張ります!】
【おっ、気合い入ってるね~。新人みたい。】
 新人と言われて嫌な気はしない。
 それだけ必死に見えるってこと。
 昔の自分は思春期もあってか、頑張りすぎるのをダサいと思っていた。
 その考えが恥ずかしい。
 先輩たちは皆才能に溢れていて、最高のパフォーマンスを簡単にやってみせる人ばかりだと勘違いしていた。
 ただ、努力を世間には見せていないだけ。
 私が練習量を増やした時、会議室で遭遇した他グループ担当の制作チーム陣が「ありゃ無理だろ」と馬鹿にしていたのがずっと頭に残ってる。
 嫌な言葉ほど容易に脳内再生できる。
 陰口をバネにやってきた。
 馬鹿にした人をとことん見返してやりたい。
 私の目は闘志に燃え上がった。
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