Too late
 眠りにつく寸前になって、一度ベッドに横たえた体を起こした。
 明日も朝は早いし夜更かしする暇はない。
 ベッドから立ち上がり別室までいくとクローゼットを開ける。
 枕棚には収納ボックスを何個もスタックしていて季節外れの衣類を入れている。
 その最下段、一番取りづらい場所に置いているボックスを、わざわざリビングから椅子を移動させて手に取った。
 前の家で、これは一度も開けなかった。
 中身を見ないまま、この家にも持ってきた。
 数年越しに蓋を外す。
 このボックスには私の思い出のものや宝物を入れている。
 中を見た途端、記憶が蘇る。
 一番上には遊園地に行ったときに買ったカチューシャ。
 中学の夏休みに、幼馴染み3人で行った。
 ソヌがしていたものまで私が持っていて、2つも手元にある。
 「いらねえからやる。友達と行ったときにでも付けろ」と渡された。
 その下にはそこでお土産を買ったときの袋までちゃんと取ってある。
 袋はずっしりと重い。
 中には、思い出の写真の数々。
 1枚1枚、ゆっくりと眺めて感傷に浸る。
 実家から出てくるときに私が選んで持ってきた写真、3人のショットではなくソヌと写っているものばかり。
 荷造りをしたのは彼に振られて間もない頃。
 こんなにいっぱい彼とのツーショットを持ってくるなんて、振られちゃったこと、案外気にしてなかったのかしら。
 
 ソヌが行方をくらまして、一度だけこのボックスに手をかけたことがあった。
 彼のお兄さんと一線を越えてしまった日。
 もう二度とソヌを想ってはいけない気がした私は、この中身をすべて捨てようと箱を手に取るまでしたけれど蓋を開ける勇気がなかった。
 
 数年が過ぎて、ようやく過去と向き合う。
 この思い出、手放しはしない。

 一番気に入っている写真を1枚だけ抜き取って、箱を元の場所に戻す。
 ソヌと私が出会ってはじめてのクリスマス、うちでパーティーをした日の写真。
 ソヌは満面の笑みでクリスマスプレゼントのおもちゃを掲げて、その姿を私が笑って見ている。
 可愛らしいのに、すごく切ない。

 彼は今でも私を見てくれているんじゃないか。
 願望に近い妄想。
 3年経っても戻って来ないことが充分な答えだ。
 私のこと嫌いでもいいから、恨んでいてもいいから、見てくれたらそれでいい。
 今より有名になって、街中やテレビでよく見かけるアイドルになって
 彼のおかげで入ったこの世界で、輝くんだ。
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