Too late
たしか、前にこれを見たときも先生と電話していたんじゃなかったっけ。
だけどその頃はまだこんなに仲良くなくて緊張しながら電話に出た。
ボーカル指導が、大好きなキム先生からリク先生に変更になったと告げられたあの電話。
ジウォンには、ドラマの大事な局面だから絶対に見逃さないでと言われていたのに急に舞い込んだ先生からの電話で、その大事な場面とやらを見ることなく終わった。
通話を終わらせたらドラマはエンドロールを迎える直前の、主人公の女の子が交通事故に遭うシーン。
先が読めてた私はそれ以降、ドラマの存在さえ忘れていた。
相も変わらず、浅い内容の会話のラリーが続く。
「ご飯食べました?」
「んー、昼に食べたと思う」
「活動終わったらお誘いしますね」
「うん、ありがと」
明日が活動最終日でずいぶんと気が楽だ。
「今日も疲れたよー」
対して、電話の先の彼は溜め息混じり。
「おつかれさまです」
「んー。なかなかうまくいかんねぇ」
「でも先生、やらないといけないことはちゃんとやってるんでしょ?」
「やってるけど、俺が頑張ったところで、評価の基準は練習生たちの出来だからねー」
大人数の男子たちを束ねて、個に目を配り、調和させる。
学校教師でも難しいと思う。
学校では個を見て個を伸ばすことはしても、全体を調和はさせはしないから。
入社10年とはいえ、まだ30歳。
仮に私が50歳になった時でも今の先生と同じことはできないと思う。
私1人だけを見ていればよかったところから、急に15人以上も練習生を見ろだなんて、会社も酷だ。
PD複数名で担当を分けるのかと思っていたら、補助でPDはついているがリク先生が統括を任されて基本的にすべての指示を出す。
彼も就任してから知らされ、拒否権はなかった。
「もっと気、緩めないといつか倒れそう」
「だよね。まじで倒れそう」
「夜はちゃんと寝てます?」
「それがさ、なーんか頭が冴えちゃって熟睡できない」
「ダメでしょ。寝ないと」
「分かってんだけど、めちゃくちゃ頭が冴えんの」
今の彼は聞く限り、すごくでも寝そうな声をしている。
最近は先生の気の抜けた声しか耳にしていない。
これが眠くてそうなっているのか、ただのオフモードなのかは不明だ。
「今って眠くないんですか?」
「眠いよ。てか、ユリと話してると眠くなる」
「なんで?」
「いや、知らん。けどこの前も眠かった」
相づちを打つだけなのは眠いからなのか。
喋りながら、彼が話を聞いていなさそうなのは薄々感じていた。
「もう電話切ります?」
「やだ」
「はぁ? じゃあ、電話切ったら他のことせずに寝てくださいね」
「なんか落ちつくんだよね、その声」
遠回しに声が低くてかわいくないってディスられている気がして咄嗟に「うざっ」が出てしまった。
さすがに起こられるかと思ったら彼は笑うだけ。
きっと半分寝ている。
「安眠剤みたい」
なにそれ、と吐き捨てた。
本人には言わないけれど、本当は私も彼の声で眠くなる。
今が活動中で忙しいからそうなのかと思っていた。
今夜も通話を開始して確信する。
眠気を誘っていたのは彼の声らしい。
話始めたらなんだか横になりたくてソファーの上に寝転んだ。
もはやドラマの内容はまったく入ってこないし見ようともしていない。
私と彼の会話の隙間に、ドラマの声が邪魔をする。
リモコンで音量を下げた。
「まあ、好きなだけ使ってもらって」
「あ、寝る直前に電話するといいのかな」
「たしかに。めっちゃ寝れそう」
「え?ユリも?」
口を滑らせて飛び出た本音。
眠りに入ろうとしていた神経が急に活発になる。
「いやっ、違いますよ。先生が寝れそうですねって話です」
平静を保っているフリ。
「あぁ、そういうことか。てかさ、敬語じゃなくていいよ? 別に」
「え?」
「じゃなくていいって言うか、やめてほしい」
だけどその頃はまだこんなに仲良くなくて緊張しながら電話に出た。
ボーカル指導が、大好きなキム先生からリク先生に変更になったと告げられたあの電話。
ジウォンには、ドラマの大事な局面だから絶対に見逃さないでと言われていたのに急に舞い込んだ先生からの電話で、その大事な場面とやらを見ることなく終わった。
通話を終わらせたらドラマはエンドロールを迎える直前の、主人公の女の子が交通事故に遭うシーン。
先が読めてた私はそれ以降、ドラマの存在さえ忘れていた。
相も変わらず、浅い内容の会話のラリーが続く。
「ご飯食べました?」
「んー、昼に食べたと思う」
「活動終わったらお誘いしますね」
「うん、ありがと」
明日が活動最終日でずいぶんと気が楽だ。
「今日も疲れたよー」
対して、電話の先の彼は溜め息混じり。
「おつかれさまです」
「んー。なかなかうまくいかんねぇ」
「でも先生、やらないといけないことはちゃんとやってるんでしょ?」
「やってるけど、俺が頑張ったところで、評価の基準は練習生たちの出来だからねー」
大人数の男子たちを束ねて、個に目を配り、調和させる。
学校教師でも難しいと思う。
学校では個を見て個を伸ばすことはしても、全体を調和はさせはしないから。
入社10年とはいえ、まだ30歳。
仮に私が50歳になった時でも今の先生と同じことはできないと思う。
私1人だけを見ていればよかったところから、急に15人以上も練習生を見ろだなんて、会社も酷だ。
PD複数名で担当を分けるのかと思っていたら、補助でPDはついているがリク先生が統括を任されて基本的にすべての指示を出す。
彼も就任してから知らされ、拒否権はなかった。
「もっと気、緩めないといつか倒れそう」
「だよね。まじで倒れそう」
「夜はちゃんと寝てます?」
「それがさ、なーんか頭が冴えちゃって熟睡できない」
「ダメでしょ。寝ないと」
「分かってんだけど、めちゃくちゃ頭が冴えんの」
今の彼は聞く限り、すごくでも寝そうな声をしている。
最近は先生の気の抜けた声しか耳にしていない。
これが眠くてそうなっているのか、ただのオフモードなのかは不明だ。
「今って眠くないんですか?」
「眠いよ。てか、ユリと話してると眠くなる」
「なんで?」
「いや、知らん。けどこの前も眠かった」
相づちを打つだけなのは眠いからなのか。
喋りながら、彼が話を聞いていなさそうなのは薄々感じていた。
「もう電話切ります?」
「やだ」
「はぁ? じゃあ、電話切ったら他のことせずに寝てくださいね」
「なんか落ちつくんだよね、その声」
遠回しに声が低くてかわいくないってディスられている気がして咄嗟に「うざっ」が出てしまった。
さすがに起こられるかと思ったら彼は笑うだけ。
きっと半分寝ている。
「安眠剤みたい」
なにそれ、と吐き捨てた。
本人には言わないけれど、本当は私も彼の声で眠くなる。
今が活動中で忙しいからそうなのかと思っていた。
今夜も通話を開始して確信する。
眠気を誘っていたのは彼の声らしい。
話始めたらなんだか横になりたくてソファーの上に寝転んだ。
もはやドラマの内容はまったく入ってこないし見ようともしていない。
私と彼の会話の隙間に、ドラマの声が邪魔をする。
リモコンで音量を下げた。
「まあ、好きなだけ使ってもらって」
「あ、寝る直前に電話するといいのかな」
「たしかに。めっちゃ寝れそう」
「え?ユリも?」
口を滑らせて飛び出た本音。
眠りに入ろうとしていた神経が急に活発になる。
「いやっ、違いますよ。先生が寝れそうですねって話です」
平静を保っているフリ。
「あぁ、そういうことか。てかさ、敬語じゃなくていいよ? 別に」
「え?」
「じゃなくていいって言うか、やめてほしい」