Too late
“やめてほしい”
「それはさすがに」
「なんで?」
「だって私、デヒョンと同い年ですよ?」
「まぁ、そう言われたらそうだけど」
「ジョンヒョンオッパもタメ口ですか?」
「ううん」
ジョンヒョンオッパは入社してそう長くないし敬語が妥当か。
先生よりも年下のアーティスト、誰ならばタメ口を使うのだろう。
私から見て先生と親しい印象の数名を挙げる。
事務所内で、彼と同年代のスパボとシエン先輩や同世代のガールズグループは基本的にタメ口だが、その中でも年少の人たちはいまだ敬語だと言った。
あのグループで最年少のお姉さんというと1990年生まれ。それでも私より5つも上だ。
先輩を差し置いてリク先生にタメ口など使えない。
怖いんで無理です、とはっきり断った。
「俺がいいって言ってんのに?」
「んー。逆になんで敬語じゃダメなんですか?」
「距離感じるから」
つまり距離を感じたくないということ。
雲行きが怪しい。
「距離ってあった方がいいんじゃないですかね? 学校の先生と生徒みたいなもんなんで」
私は何かを察し、回避しようと頭を働かせた。
反応がすぐには返ってこなくて、不安になる。
ずっと眠そうでふわりとした話し方をしていた彼。
一瞬で相手側の空気感が変わったのが、電波越しに伝わる。
「生徒だなんて思ってない」
語気を強めた。
時が止まる。
電話の先の静寂は、衝撃をより大きく感じさせる。
呼吸を忘れ、開いた口は塞がらない。
「俺、ユリのこと好きになってもいい?」
作っていた壁を壊された。
通話でも文面上でも、彼がくれる優しい言葉をそのままの意味で受け取って裏はかかないようにしていた。
汲み取らない方がいいと知っていたから。
そう思いながらも日に日に深まる仲に歯止めをきかせることが出来なかったのは私の承認欲求。
関わっていくうちに、これは単に気に入った教え子を可愛がっているだけの言動ではないと分かる場面は幾度もあった。
彼が私のことを前とは違う目で見ている、それを感じて途端に怖じ気づくのと同時に興奮をも覚える。
一線を越えてはいけない、自分に厳しく言い聞かせて会話の端々に滲む彼の好意を知らんぷりで乗り切る。
関係の破綻を防いで安堵しながらも、彼が私に気づいてほしくてより大胆な言葉を言うようになっていく様子に、一種の快感を感じていた。
放たれた決定打に対処しきれず、黙りこくる。
彼はお構いなしに気持ちを溢れさせた。
「もっと俺に興味もってほしい......」
弱々しい呟きが切ない。
「ただの知り合いにこんなに連絡しないよ、普通」
私が鈍感だから気づいてないと思っているらしく追い討ちをかけるように言葉を並べていく。
ただ混乱しているだけなのに......
私の動揺には一切気づかない。
彼自身がすごく鈍感だから。
「ちょっとくらい気づけよ。俺こんなに自分からいくタイプじゃないじゃん」
口数が半端なく多い。
先生もう絶対に眠くなんてないはず。
「せ、先生?」
台詞も考えないまま、口を開いて彼を止める。
「ん?」
「ちょっと待ってください......」
「うん」
「私、どうしたらいいんですかね......?」
彼が優しく笑う。
おかしいことを聞いている自覚はあるしこの質問が彼を困らせるの分かる。
「どうもしなくていいよ、別に」
意外な返答だった。
てっきり「付き合いたい」とか「俺のことどう思ってるの?」とか、気持ちを聞いてくると思っていたから。
ふと見せる大人の余裕とやらに不覚にもときめいてしまった。
何も要求しないところ、人を困らせることを避けたがる彼の性格が表れている。
彼は平和主義だ。
対立が起きたときも双方の話を聞くまでは判断を下さない。
だからどちらか一方に肩入れすることもなくて、最後まで中立を貫くタイプ。
ある意味冷たいのかもしれないけど、誰かの味方になることでもう片方を窮地に追いやってしまうのが苦手なだけだと思う。
まあ、私のことはさんざん傷つけてたけど......
「それはさすがに」
「なんで?」
「だって私、デヒョンと同い年ですよ?」
「まぁ、そう言われたらそうだけど」
「ジョンヒョンオッパもタメ口ですか?」
「ううん」
ジョンヒョンオッパは入社してそう長くないし敬語が妥当か。
先生よりも年下のアーティスト、誰ならばタメ口を使うのだろう。
私から見て先生と親しい印象の数名を挙げる。
事務所内で、彼と同年代のスパボとシエン先輩や同世代のガールズグループは基本的にタメ口だが、その中でも年少の人たちはいまだ敬語だと言った。
あのグループで最年少のお姉さんというと1990年生まれ。それでも私より5つも上だ。
先輩を差し置いてリク先生にタメ口など使えない。
怖いんで無理です、とはっきり断った。
「俺がいいって言ってんのに?」
「んー。逆になんで敬語じゃダメなんですか?」
「距離感じるから」
つまり距離を感じたくないということ。
雲行きが怪しい。
「距離ってあった方がいいんじゃないですかね? 学校の先生と生徒みたいなもんなんで」
私は何かを察し、回避しようと頭を働かせた。
反応がすぐには返ってこなくて、不安になる。
ずっと眠そうでふわりとした話し方をしていた彼。
一瞬で相手側の空気感が変わったのが、電波越しに伝わる。
「生徒だなんて思ってない」
語気を強めた。
時が止まる。
電話の先の静寂は、衝撃をより大きく感じさせる。
呼吸を忘れ、開いた口は塞がらない。
「俺、ユリのこと好きになってもいい?」
作っていた壁を壊された。
通話でも文面上でも、彼がくれる優しい言葉をそのままの意味で受け取って裏はかかないようにしていた。
汲み取らない方がいいと知っていたから。
そう思いながらも日に日に深まる仲に歯止めをきかせることが出来なかったのは私の承認欲求。
関わっていくうちに、これは単に気に入った教え子を可愛がっているだけの言動ではないと分かる場面は幾度もあった。
彼が私のことを前とは違う目で見ている、それを感じて途端に怖じ気づくのと同時に興奮をも覚える。
一線を越えてはいけない、自分に厳しく言い聞かせて会話の端々に滲む彼の好意を知らんぷりで乗り切る。
関係の破綻を防いで安堵しながらも、彼が私に気づいてほしくてより大胆な言葉を言うようになっていく様子に、一種の快感を感じていた。
放たれた決定打に対処しきれず、黙りこくる。
彼はお構いなしに気持ちを溢れさせた。
「もっと俺に興味もってほしい......」
弱々しい呟きが切ない。
「ただの知り合いにこんなに連絡しないよ、普通」
私が鈍感だから気づいてないと思っているらしく追い討ちをかけるように言葉を並べていく。
ただ混乱しているだけなのに......
私の動揺には一切気づかない。
彼自身がすごく鈍感だから。
「ちょっとくらい気づけよ。俺こんなに自分からいくタイプじゃないじゃん」
口数が半端なく多い。
先生もう絶対に眠くなんてないはず。
「せ、先生?」
台詞も考えないまま、口を開いて彼を止める。
「ん?」
「ちょっと待ってください......」
「うん」
「私、どうしたらいいんですかね......?」
彼が優しく笑う。
おかしいことを聞いている自覚はあるしこの質問が彼を困らせるの分かる。
「どうもしなくていいよ、別に」
意外な返答だった。
てっきり「付き合いたい」とか「俺のことどう思ってるの?」とか、気持ちを聞いてくると思っていたから。
ふと見せる大人の余裕とやらに不覚にもときめいてしまった。
何も要求しないところ、人を困らせることを避けたがる彼の性格が表れている。
彼は平和主義だ。
対立が起きたときも双方の話を聞くまでは判断を下さない。
だからどちらか一方に肩入れすることもなくて、最後まで中立を貫くタイプ。
ある意味冷たいのかもしれないけど、誰かの味方になることでもう片方を窮地に追いやってしまうのが苦手なだけだと思う。
まあ、私のことはさんざん傷つけてたけど......