Too late
「えっ......」
「諦めてって言われても、無理。結構好きになっちゃってんだもん」
「先生、私今は恋愛しないって決めてて」
「うん。わかってる。邪魔はしたくないし、でも、ユリの些細な愚痴とか弱音とか、俺が受け止めたい」
どうしよう。
あれだけ堅く誓ったのに、理性がうまく働かない。
「あとね。これだけは言っておきたいんだけど」
「はい」
「俺に応えようとしなくていいから。負担になりたくないんだ」
先生、やっぱり私は——————
混乱したまま沈黙を貫く。
通話相手に何かしらの応答をすべきだというのに、頭は思うように動かなくて視線の先のドラマを見入る。
予測通り、主人公が彼の前に現れて、空港に行き交う人々の注目をかっさらいながら熱い抱擁と口づけを交わす。
カメラの視点は彼らの周りをぐるりと回りだし、話題になっている主題歌が絶好のタイミングで流れ始めた。
ドラマチック、いや、ドラマだからそりゃそうか。
「聞いてる?」
「えっ? あ、ああ、はい」
「もしかして何か見てる?」
「えっ......」
そんなことないです、とバレバレな嘘をつく必要もない。
素直に認めた。
すると彼が、今まさしく私が見ているドラマのタイトルを言った。
こっちのテレビ、ボリュームを大きくしていたっけ、とリモコンを操作するが通話するためにあらかじめ小さい音量に下げていた。
どうして分かったのだろう。
「俺も見てんだ。今」
「......先生って恋愛ドラマ見るんですか!?」
彼は「俺のことなんだと思ってるの?」って、まるで私がすごく失礼なことを言ったみたいにそう言った。
「毎週見てるわけじゃないよ。ただ、前もユリと電話したときに偶然このドラマつけてた」
同じだ......
「あの日なんでこれ見てたのかわかんないけど、今もテレビつけててユリに電話かけたら始まったからそのまま見てる。今日で2回目だから正直内容はよく知らないんだけど」
「あの電話から、たぶんちょうど1か月ですよね」
「そうだっけ。まだ1ヶ月?」
「あの日、私も......見てたんです」
「へぇ、そうなんだ」
思っていたよりも彼はしらっとしていて、拍子抜けした。
こういう些細なことに運命を感じてしまう私がメルヘンチックなだけなのか。
「この前見てたときには、まさか1か月後にこういう話をしてるなんて想像もつかなかったな」
「たしかに......だってあの時はまだ全然許してなかったから」
ちょっと酷いことをぶっちゃけても「おい、まじかよ~」と言うだけで済む。
全くもって喜べる話じゃなくても、彼は心なしか嬉しそう。
「今は、どうなの?」
「今も許してなかったらさすがにこんな電話したりしないでしょ」
「ああ、そうか。そうだよな」
「今回のコラボも大成功だったし、先生には感謝してもしきれないです。本当に、ありがとうございます」
「うん......良かったよ」
彼が求めているのはそういう言葉じゃないと分かっている上で、私は答えた。
今は距離をとらないといけない。
その間に先生が他の女の子とうまくいったなら、それもまた私には変えようのない運命だから。