Too late
 もうじき秋がやってくる。
 9月の終わりとともにコラボ活動を締め括り、本来はすごく暇になる予定だった10月。
 コラボ曲のヒットにより新たな個人スケジュールも急遽舞い込んだ。
 オフの日数は減ったけど、ある程度忙しい方が嬉しい。
 
 その日私はお昼過ぎに仕事を済ませて家でだらだらと過ごしていた。
 前触れもなくシウからの着信。
 彼の実家にお邪魔してからそれ以来会ってはいないしチャットするばかりで声も聞いていない。
 私は仕事柄不規則な生活。対して彼は規則正しく忙しい。
 ちょっと前にもお父さんの代わりにシンガポールへ行っていた。
 こんな真っ昼間に電話なんて珍しい。
「今日、このあと空いてる?」
 さっきカトクで【久々にこの時間に家いる】と送ったから、仕事終わりだと知っている。
「いや、何もない」
「会える?」
「えっ、まあ、会えるけど仕事は?」
「詳細はあとで話すわ。迎え行くから。15分後には着く」

 端的に伝え、すぐに通話を切った。
 目的がさっぱり分からず、1、2時間会うだけかと思いラフな格好のまま出ていく。
 うちの近くまで車を飛ばしてきた彼は、神妙な面持ちで私を迎えた。
 スーツ姿だ。
 今日も仕事だろう。
 
「どうしたの?」
「あのさ、お願いがあって」

 彼は意を決して口を開いた。

「スジヌナが、暇してるから相手してくんない?」

 スジさんのお相手を私にしろと……?

「お相手って具体的に何をすれば良いんですか?」

 萎縮したサマを見兼ねて「俺も一緒だから大丈夫」と私を安心させる。
 シウも詳しくは聞いていないようだ。
 スジさんの友だちを家に呼んではどうかと提案したら「ユリちゃんじゃないとダメ!」と言われたらしい。
 すんなり承諾してしまい、城北洞の豪邸へ。
 前ここに来た時は夜だったけど、お昼に見るこのお家はよりドラマチックな美しさ。
 玄関に入って靴を脱ぐ頃になってようやく自分のざっとした格好に気がついた。
 私たちを出迎えに現れたスジさん。
 相変わらず華やかで、対照的な身なりの私はシウの影にそっと身を隠す。
 彼女は可憐な微笑みとともに私に挨拶をした。
「突然呼んじゃったのにありがとうねぇ。さあ、上がって!」
 そそくさと用意されたスリッパに履きかえる。
 シウを先に行くように促す。
 何故だか頭を撫でられた。意味不明だ。

 リビングに通された。
 以前にちらりと見えた内装から想像していた部屋よりも実際は豪華で、目を奪われる。
 白地に金の縁取りがされたヨーロッパ調のソファーセット。
 テレビの前のローテーブル、その他のチェストやらコンソールテーブルも全て白のヨーロッパ家具に統一されている。
 スジさんがソファーに座る。
 普通の人じゃ似合わない家具もお似合いだ。
 韓国ドラマのスタジオに出来そうだしスジさんも女優さんに見えてきた。
「どうぞ、座って?」
「お邪魔します」
 
 高級ソファーにゆっくりと腰を沈める。
 彼はというと座らずに突っ立ったまま。
 
「じゃ、俺は上いるから」
 
「えっ、まって」
 不安いっぱいに引き留める。
 彼が優しく笑う。

「大丈夫だよ。ヌナ優しいから。俺よりも優しいよ?多分」

 私が初めてここに来た時、シウはまだスジさんのことを「信用できない」と言っていた。
 彼女の優しさにも疑いの目を向けて、硬いバリケードを張っているように見えた。
 用心深い彼が、信用していない相手と私を2人きりにすることは無い。
 きっとそれだけ心を開いたということ。
 おまけに自分よりも優しい、と言うだなんて。
 よっぽどスジさんとの関係が良好な証だ。

「じゃあ待ってるね」
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