Too late
「シウヒョンって女の影が無かったけど、相手がいないわけなし隠してたのかな?あんなにイケメンだし」

 シウは小さい頃から本当に綺麗な顔をしてる。おまけに今では高身長だしスタイルもいい。
 芸能界にスカウトされたことも、なんならうちの事務所のスカウトマンから声をかけられたことも何度もある。

「シウオッパとユリ、本当お似合いだと思う」
「テキトーなこと言って」
「本当だよ、オッパにはこんないい匂いするお姉さんがお似合いでーす」

 既に先ほど呑み始めたお酒が効いてきているジウォンに抱きつかれる。

「ユリ今日いい匂いする。香水?」
「あ、うん」

 リク先生からのプレゼント、中身は香水だった。
 初めての贈り物が香水ってちょっと意味深。
 私のことをよく幼いだとかガキンチョだとか言ってる先生がこんな素敵なものをくれるのが不思議でもあり、しかしながら嬉しくもある。そして余計に惚れちゃう。
 私と先生の関係が今までとはほんの少しだけでも変わった気がして、淡い期待を抱いてしまう。

 シウとはほぼ縁が切れたも同然。私の悪事を何も知らない人と新しい恋をしたい。

「私もそろそろ彼氏作ろっかな」
「えっ、恋愛宣言?」
「だってもううちら大人だよ〜?」
「良い人見つけたらちゃんと教えろよ!
みんな隠し事無しだから!」

 深夜0時。
 3人での楽しい時間はあっという間に過ぎ去り、2人も帰ってしまって部屋の片付けを終えようやく一息ついた。今日3人で一緒に撮った写真や動画が共有フォルダにアップロードされて、見返していたところに   
 先生からカカオトークの返信がきた。
 前日の夜に《プレゼント凄く嬉しかったです! ありがとうございます。大事に使います》と送ったのに対してほぼ1日経っての返事。しかも《よかった》だけ。
 私の担当だった頃は私の連絡の優先順位はそれなりに高かったから数時間以内には返信をくれていた。
 私のことなんて今は本気でどうでもよさそう。
 リク先生ってもしかして誰にでも香水あげる人なのかな?お酒が入っているせいかいつもよりも大胆になっている私は彼に尋ねた。

《先生ってこの香水の匂い好きなんですか?》

 彼からすぐ返事が来た。

《いや、別にそういうわけでもない》

 なにそれ。
 先生のことだしそんなことだろうと思ってた。
 どうせ私の知らない女の人にオススメされたやつなんでしょ。
 先生は事務所以外での交友関係があまり見えないしよく知らないけどモテないはずがない。
 彼女がいてもおかしくはない......にしては女心を知らなすぎるか。

 先生、筋金入りの鈍感だからこの際はっきり好意を見せようかな?
 私がアタックしても周りに言いふらすような馬鹿な真似しないと思う。

《先生って彼女いるんですか?》

 4年も一緒にいたのに一度も聞かなかった事。前は別に興味なかったし、好きになってからは聞けるわけもなかった。
 でも、彼女いるって分かった方がしっかり諦めがつきそうだから。
 返事が来た途端、文字は見ずに一度画面を伏せて大きく深呼吸した。
 先生に彼女が居ないわけない!
 お願い! もういっそのこと長く付き合ってて同棲してる彼女でも居て!

 目をぎゅっと瞑ったまま携帯を表に返してゆっくりと片目ずつ開く。

《ずっと1人ですけど?》

 返事を見た瞬間「はぁっ、よかったぁ〜」と心からの安堵の声が漏れ出て自分の本音を思い知らされる。
 こうなったら全部聞いちゃえ。

《好きな人もいないんですか?》

《いないね》

《先生ってどんな人が好みですか?》

《好みとか無いな。好きになった人が好き》

 勇気を出して聞いたのになに一つヒントは貰えず、

《むずかしい人ですね》

 なんて返して終わらせた。
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