Too late
初対面から1ヶ月も経ってないはずだがスジさんのお腹は丸く成長している。
今日、午前中に検診でそのあと百貨店へ行ったそうだ。
2週に1度、必ず行くほど買い物好きだが、妊娠してからは月1に減った。
その上、お腹も大きくなって今日はショッピングを存分に楽しめなかったんだとか。
行きつけの百貨店のVIP顧客で、本来なら担当者が家までお薦めの品を何十点も持って来て家でゆっくり見ながら選ぶことができる。
しかし彼女は自分で色んな店を見て回るのが好きだと言った。
私も似たような考えだ。
担当チームがいくら、好みや金銭感覚を把握しているとはいえ、絞られたものの中から選ぶのってつまらなそう。
そろそろと奥から出てきた家政婦さんが紅茶とかわいいマカロンをテーブルに並べる。
「かわいい〜! あっ、私、何の手土産も持ってこなくて……すみません」
「いいのよ〜、来てくれるだけで充分よ。さぁ、食べて」
手始めにティーカップを手に取り、口をつける。
自分が猫舌なことを忘れて勢いよく熱々の紅茶を迎え入れてしまった。
「……っ」
舌先が熱さを感知した頃にはときすでに遅し、軽く火傷した。
悟られないようにと平静を装って、飲んでいるふりをする。
飲まないと減らない紅茶。
出されたものにしっかり手をつけている風に見せるべく、百貨店で調達してきたであろう高級マカロンを時間をかけて味わいながらスジさんの話に耳を傾けた。
スジさんの職業はスタイリスト兼ヘアメイクさん。
友人と一緒に開業した美容室で、再婚するまでの10年以上トップスタイリストとして働いていた。
その美容室の名前は私も知っている、有名な美容室のひとつ。
芸能人は仕事前に美容室に行ってヘアメイクを済ませてから現場へ向かう。
大半の事務所が、美容室との固定契約をしている。
活動コンセプトに合ったより良いスタイルにしてもらうために事務所も美容師の先生たちに依頼をする。
スタイリングで話題性が左右されるため、芸能人にとってなくて美容室選びは肝心で、なくてはならない存在。
どこでシウのお父さんと出逢ったのか不思議だったけれど、スジさん自体もその道では有名な人だった。
シウの義理の弟、中学生のテヒくんについての話もしてくれた。
反抗期と人見知りでシウとうまく関係を築けていないことを心配している。
再婚するまで10年近く、すごく苦労したし親子での時間を充分には取れなかったからその分を今取り返したいと思うのに、今ではテヒくんがあまり話してもくれないと嘆く。
切ない。
多感な時期に年の離れた弟が産まれたり、血の繋がらないお兄ちゃんが出来たり、テヒ君もなかなかに珍しい境遇。
同情の余地がある。
「でね、本題! 今日ユリちゃんを呼んだのはちょっとお願いしたいことがあるの! 私と身長がほぼ一緒みたいだから、今日お付き合いで買った服を着てみてほしくて」
「服って......スジさんの服ってことですか?」
「うん。ベビー服だけじゃなくて自分の服も買ったのよ。ベビー服を見るのは楽しいし幸せなことだけど、たくさん買っても金額も安いしなんだか買い物をした気がしなくてね」
私に着せるということは、試着もなく高価な服を買ったのか。
いや、高価といっても彼女にとっては日常のショッピング。
変に気を遣って断るのも失礼だ。
着るだけだし、大丈夫。
「さっそくドレスルームにお連れしてもいいかしら?」
スジさんは興奮ぎみにそう言って立ち上がる。
向かう先で彼女の所有物を汚さぬように徹底すべく、戴いたマカロンや紅茶が自分の衣服や顔に付着していないか確認した。
リビングを出て、玄関から続くフロアにある白いグランドピアノの前を通過してまだ見たことのないフロアへ入る。
扉の奥はリビングとは一変して暖かみのある茶色の壁紙で覆われ、落ち着いた雰囲気だ。
ここにもまたテレビやソファーがあり、右左には別室に繋がるドアが複数。
かくれんぼのしがいがありそうな部屋の数。
さっきのは客間でこちらがご夫妻用リビング、いわゆるプライベート空間だろう。
リビングは家に1つの常識を覆された。
正直ここのほうが何倍も居心地はいい。
シンプルな家具たち。
それらも洗練されていて、品が漂う。
人の部屋をぐるぐると見渡すのもよくないと思い、頭は動かさずして目の玉を彷徨かせる。
彼女は別室のひとつに私を連れて行った。
今日、午前中に検診でそのあと百貨店へ行ったそうだ。
2週に1度、必ず行くほど買い物好きだが、妊娠してからは月1に減った。
その上、お腹も大きくなって今日はショッピングを存分に楽しめなかったんだとか。
行きつけの百貨店のVIP顧客で、本来なら担当者が家までお薦めの品を何十点も持って来て家でゆっくり見ながら選ぶことができる。
しかし彼女は自分で色んな店を見て回るのが好きだと言った。
私も似たような考えだ。
担当チームがいくら、好みや金銭感覚を把握しているとはいえ、絞られたものの中から選ぶのってつまらなそう。
そろそろと奥から出てきた家政婦さんが紅茶とかわいいマカロンをテーブルに並べる。
「かわいい〜! あっ、私、何の手土産も持ってこなくて……すみません」
「いいのよ〜、来てくれるだけで充分よ。さぁ、食べて」
手始めにティーカップを手に取り、口をつける。
自分が猫舌なことを忘れて勢いよく熱々の紅茶を迎え入れてしまった。
「……っ」
舌先が熱さを感知した頃にはときすでに遅し、軽く火傷した。
悟られないようにと平静を装って、飲んでいるふりをする。
飲まないと減らない紅茶。
出されたものにしっかり手をつけている風に見せるべく、百貨店で調達してきたであろう高級マカロンを時間をかけて味わいながらスジさんの話に耳を傾けた。
スジさんの職業はスタイリスト兼ヘアメイクさん。
友人と一緒に開業した美容室で、再婚するまでの10年以上トップスタイリストとして働いていた。
その美容室の名前は私も知っている、有名な美容室のひとつ。
芸能人は仕事前に美容室に行ってヘアメイクを済ませてから現場へ向かう。
大半の事務所が、美容室との固定契約をしている。
活動コンセプトに合ったより良いスタイルにしてもらうために事務所も美容師の先生たちに依頼をする。
スタイリングで話題性が左右されるため、芸能人にとってなくて美容室選びは肝心で、なくてはならない存在。
どこでシウのお父さんと出逢ったのか不思議だったけれど、スジさん自体もその道では有名な人だった。
シウの義理の弟、中学生のテヒくんについての話もしてくれた。
反抗期と人見知りでシウとうまく関係を築けていないことを心配している。
再婚するまで10年近く、すごく苦労したし親子での時間を充分には取れなかったからその分を今取り返したいと思うのに、今ではテヒくんがあまり話してもくれないと嘆く。
切ない。
多感な時期に年の離れた弟が産まれたり、血の繋がらないお兄ちゃんが出来たり、テヒ君もなかなかに珍しい境遇。
同情の余地がある。
「でね、本題! 今日ユリちゃんを呼んだのはちょっとお願いしたいことがあるの! 私と身長がほぼ一緒みたいだから、今日お付き合いで買った服を着てみてほしくて」
「服って......スジさんの服ってことですか?」
「うん。ベビー服だけじゃなくて自分の服も買ったのよ。ベビー服を見るのは楽しいし幸せなことだけど、たくさん買っても金額も安いしなんだか買い物をした気がしなくてね」
私に着せるということは、試着もなく高価な服を買ったのか。
いや、高価といっても彼女にとっては日常のショッピング。
変に気を遣って断るのも失礼だ。
着るだけだし、大丈夫。
「さっそくドレスルームにお連れしてもいいかしら?」
スジさんは興奮ぎみにそう言って立ち上がる。
向かう先で彼女の所有物を汚さぬように徹底すべく、戴いたマカロンや紅茶が自分の衣服や顔に付着していないか確認した。
リビングを出て、玄関から続くフロアにある白いグランドピアノの前を通過してまだ見たことのないフロアへ入る。
扉の奥はリビングとは一変して暖かみのある茶色の壁紙で覆われ、落ち着いた雰囲気だ。
ここにもまたテレビやソファーがあり、右左には別室に繋がるドアが複数。
かくれんぼのしがいがありそうな部屋の数。
さっきのは客間でこちらがご夫妻用リビング、いわゆるプライベート空間だろう。
リビングは家に1つの常識を覆された。
正直ここのほうが何倍も居心地はいい。
シンプルな家具たち。
それらも洗練されていて、品が漂う。
人の部屋をぐるぐると見渡すのもよくないと思い、頭は動かさずして目の玉を彷徨かせる。
彼女は別室のひとつに私を連れて行った。