Too late
 部屋に足を踏み入れる。
 彼女がまず部屋の電気を点け、その他のスイッチを押すとディスプレイされた部分もライトアップに照らされた。
 目の前の光景に感嘆の声が漏れる。
 そこはまるでお店のごとく洋服から靴からバック、アクセサリーまで全てが綺麗にディスプレイされている。
 レッドカーペットのように真っ赤な絨毯、ど真ん中に居座るショーケースにはジュエリーが並ぶ。
 バッグのスペースは場所をたっぷりと使い、ひとつずつの間隔に余裕がある。
 ここが百貨店そのもののようだ。

「素晴らしいです......」

 率直な感想をポツリ。
 驚きもあり、小さく囁く声しか出なかった。
 これが個人の邸宅だと思えない。
 規格外のお金持ちを目の当たりにする。
 女性の憧れというか、憧れのその先をいく輝いた世界。
 この部屋に来ただけで、自分まで少しイイ女になった勘違いを起こすほどに眩い。
 彼女はそのまた奥にある部屋へ私を誘う。
 大きな全身鏡。その隣にはドレッサー。
 ドレッサーもまた楽屋みたいに横長い鏡で、果たして鏡としての役目を果たしている部分は何センチだろうかと可愛くない疑問が浮かんだ。
「あっちじゃ落ち着かないから、ここでフィッティングしてみて? 今日買ったのはあれなの」
 ハンガーラックを指した。
「えっ、今日買ったんですか? 全部?」
 試着せずに買ったのだからほんの2、3点だと思っていた。
 10点以上はある服の数々。
 近寄って見たら、ハンガーにはそれぞれのブランドロゴが入っている。
 目に入ってくる情報の多さに思わず躊躇した。
 仕事で高価な服を着ることはあるし、高いものを見てもそんな驚くこともない。
 でも、ここまでの数が揃っていると女の子なら誰でも舞い上がってしまうだろう。

 スジさんは「私はあっちで待ってま~す」と言ってさっきの豪華な衣装部屋に消えた。
 カーテン付きのフィッティングスペース。
 ご丁寧にちゃんとフェイスカバーまで用意されている。
 スジさんは自分の服でも毎日こうやって着ているのか。
 お金持ちも楽じゃない。
 テキトーに選んで着たTシャツをスカートを脱ぐ。
 自分のTシャツでありもしない手垢をこすり落とす。
 決して傷つけることのないように1着目のワンピースをゆっくりと優しく手に取る。
 首を通す際に、顔がワンピースの首回りに付かないように顔の筋肉という筋肉をもぞもぞと動かした。
 無事に顔を通過してワンピースがストンと肩に引っ掛かると、「はぁっ」とため息が出た。
 気疲れがすごい。

 用意されたヒールを掃いて彼女の前に登場すると、勢いよく立ち上がって拍手をし、恥ずかしくなるほど大袈裟に褒める。
「かわいい~! かわいすぎる! これを選んだ私は天才!」
 あ、私のことじゃなくて服のことを褒めているだけ?
「スジさんにすごく似合いそうです」
「じゃあ次!」

 もうちょっとじっくり見るのかと思いきや、ちょっと確認したら次へと促す。
 私は着せ替え人形と化して、全部に袖を通した。
 身長が近いとは言え、私に合う服をその年齢で着こなせる彼女はただ者ではない。
 体型を選ばないワンピースだけではなく、ボトムスやインナーも私にピッタリのサイズだった。
 仕事上の体型管理をしている私とほぼ変わらないだなんて......私がスジさんの年齢になるときにこの体型を維持できている自信はない。
 生まれ持った美貌に加えて体質まで恵まれている人もいるのだと思い知った。
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