Too late
私が最後の1着まで着て見せると、さぞご満悦な様子。
「全部かわいいな~ユリちゃんはどれが好きだった?」
「どれも素敵ですよ」
「もしユリちゃんが好きな人とデートするならどれを着たい?」
「えっ!?」
不意をつかれて変な声が出る。
おかしな反応をみせた私に彼女は何か言うわけでもなく、黙ったままにっこりと私の返答を待つ。
どうしてそんなことを聞くのだろう。
もしかしてシウから何かを聞いている?
「私なら、これ......ですかね」
最後に着たワンピース。
レース素材のオフホワイトのミニドレスだ。
一見お姫様のようになってしまいそうだが、着てみるとそのIラインのシルエットとノースリーブによりスッキリとしていて変に悪目立ちはしていない。
ハンガーラックに掛かっている時点で私の視線を強奪していた。
まだ値札が全部の服に付いていて、つい確認してしまったのだがこの服はそれまで試着した服たちと比べたら価格は低め。
丈も他のものと違いかなり短い。
私の背丈だと膝上10センチ程。
用意されていたヌーディーカラーのパンプスを合わせたら、上品な仕上がりになった。
慣れないハイヒールにぐらついて、お腹に力を入れ姿勢を正す。
私のデビューコンセプト自体、ボーイッシュだったりクールなイメージだから厚底スニーカーやブーツ、ローヒールの靴を履くことが多かった。
稀に音楽祭授賞式でドレスを着る際にハイヒールを履くため、その時の気分を思い出して気が引き締まる。
コラボ曲のステージに、この華やかでフェミニンな印象を受ける衣装が合いそうだ。
「たしかにそれ、すっごく似合う!」
「へへっ、ありがとうございます」
「ねえ、久々にヘアメイクしてみたいから付き合ってくれる?」
問答無用でドレッサーの前に座らせられる。
彼女はご機嫌に鼻歌を歌いながらドレッサーのライトを点けて、ヘアセットに使うアイロンやクシを準備し始めた。
今日はナチュラルメイクのみで、このワンピースには物足りない。
私も初めてのスジさんのヘアメイクに興味津々でテンションが上がった。
何十年も、日々芸能人のヘアメイクを完成させてきた人だから、急にパタリとその仕事を辞めてたまにはこういうことをしたくなるのだろう。
子育てが落ち着いたら現場に復帰したいそうだ。
第一線で活躍していたその実力を眠らせておくのは惜しい。
「こんなかわいい娘がいたらお母様も幸せね〜」
「そうですか? でも私、年齢的には娘っていうより妹ですよね?スジさんにとっては。」
「そうね.....スジさん、じゃなくてオンニって呼んでくれてもいいのよ」
「じゃあ、お言葉に甘えてそうします」
彼女は笑顔を絶やさずに話を振りながらも、休む間も無く手をてきぱきと動かす。
仕事っぷりを見て、彼女の実力が知れる。
口と手つきは別人みたいだ。
内面は優雅でおっとりしているが仕事になると捌けるタイプらしい。
私は行動にともなって口調が忙しくなる人間だから、彼女みたいに周りを焦らせずに自分だけスイッチを入れることのできる人が羨ましい。
まさしく理想の大人の女性像だ。
メイクの仕上げに、艶のあるグロスを塗ってもらっている最中、スジオンニは言った。
「実はね、うちとお付き合いのある会社の娘さんを今度シウくんと会わせることになったのよ」
微笑みを保ったままの彼女、こちらは固まる。
無言の私に、鏡の中の彼女が首を傾げた。
「どうしたの?」
「あっ......いや、その......お見合い、的なことですか?」
「お見合いってわけでもないんじゃないかしら? その子がシウくんの通ってた大学で、同じ所に留学するつもりだから話を聞きたいって。お相手もユリちゃんと同い年だし、ただ紹介するってだけよ」
大きく横長な鏡には自身の姿がはっきりと映っており、目を背けはできない。
自分自身と向き合う。
複雑で形容詞し難いその表情に、本心からも目を背けられなくなった。
彼を取られたらどうしようって顔してる。
我が儘で、醜い。
「全部かわいいな~ユリちゃんはどれが好きだった?」
「どれも素敵ですよ」
「もしユリちゃんが好きな人とデートするならどれを着たい?」
「えっ!?」
不意をつかれて変な声が出る。
おかしな反応をみせた私に彼女は何か言うわけでもなく、黙ったままにっこりと私の返答を待つ。
どうしてそんなことを聞くのだろう。
もしかしてシウから何かを聞いている?
「私なら、これ......ですかね」
最後に着たワンピース。
レース素材のオフホワイトのミニドレスだ。
一見お姫様のようになってしまいそうだが、着てみるとそのIラインのシルエットとノースリーブによりスッキリとしていて変に悪目立ちはしていない。
ハンガーラックに掛かっている時点で私の視線を強奪していた。
まだ値札が全部の服に付いていて、つい確認してしまったのだがこの服はそれまで試着した服たちと比べたら価格は低め。
丈も他のものと違いかなり短い。
私の背丈だと膝上10センチ程。
用意されていたヌーディーカラーのパンプスを合わせたら、上品な仕上がりになった。
慣れないハイヒールにぐらついて、お腹に力を入れ姿勢を正す。
私のデビューコンセプト自体、ボーイッシュだったりクールなイメージだから厚底スニーカーやブーツ、ローヒールの靴を履くことが多かった。
稀に音楽祭授賞式でドレスを着る際にハイヒールを履くため、その時の気分を思い出して気が引き締まる。
コラボ曲のステージに、この華やかでフェミニンな印象を受ける衣装が合いそうだ。
「たしかにそれ、すっごく似合う!」
「へへっ、ありがとうございます」
「ねえ、久々にヘアメイクしてみたいから付き合ってくれる?」
問答無用でドレッサーの前に座らせられる。
彼女はご機嫌に鼻歌を歌いながらドレッサーのライトを点けて、ヘアセットに使うアイロンやクシを準備し始めた。
今日はナチュラルメイクのみで、このワンピースには物足りない。
私も初めてのスジさんのヘアメイクに興味津々でテンションが上がった。
何十年も、日々芸能人のヘアメイクを完成させてきた人だから、急にパタリとその仕事を辞めてたまにはこういうことをしたくなるのだろう。
子育てが落ち着いたら現場に復帰したいそうだ。
第一線で活躍していたその実力を眠らせておくのは惜しい。
「こんなかわいい娘がいたらお母様も幸せね〜」
「そうですか? でも私、年齢的には娘っていうより妹ですよね?スジさんにとっては。」
「そうね.....スジさん、じゃなくてオンニって呼んでくれてもいいのよ」
「じゃあ、お言葉に甘えてそうします」
彼女は笑顔を絶やさずに話を振りながらも、休む間も無く手をてきぱきと動かす。
仕事っぷりを見て、彼女の実力が知れる。
口と手つきは別人みたいだ。
内面は優雅でおっとりしているが仕事になると捌けるタイプらしい。
私は行動にともなって口調が忙しくなる人間だから、彼女みたいに周りを焦らせずに自分だけスイッチを入れることのできる人が羨ましい。
まさしく理想の大人の女性像だ。
メイクの仕上げに、艶のあるグロスを塗ってもらっている最中、スジオンニは言った。
「実はね、うちとお付き合いのある会社の娘さんを今度シウくんと会わせることになったのよ」
微笑みを保ったままの彼女、こちらは固まる。
無言の私に、鏡の中の彼女が首を傾げた。
「どうしたの?」
「あっ......いや、その......お見合い、的なことですか?」
「お見合いってわけでもないんじゃないかしら? その子がシウくんの通ってた大学で、同じ所に留学するつもりだから話を聞きたいって。お相手もユリちゃんと同い年だし、ただ紹介するってだけよ」
大きく横長な鏡には自身の姿がはっきりと映っており、目を背けはできない。
自分自身と向き合う。
複雑で形容詞し難いその表情に、本心からも目を背けられなくなった。
彼を取られたらどうしようって顔してる。
我が儘で、醜い。