Too late
——回想《あの日》——

 8歳の頃、一目惚れの初恋をした。
 ぶっきらぼうで恥ずかしがり屋だけど大胆な幼馴染みは、不器用ながらにも私のことを大事にしてくれる優しい男の子だった。
 親友でもあり兄妹でもありソウルメイトでもあり、大人になればそれ以上の仲になることを期待していた。
 彼のお兄ちゃんとは反対に、優等生ではなかった。
 学校に行くのは授業ではなく休み時間と放課後のバスケとサッカーが楽しみだから。
 自由な時間に暴れまわり授業中は爆睡をかます。
 いつも走り回っていて常に体のどこかにキズを作って帰ってくる。
 いわゆるガキンチョだ。
 そんな彼にもひとつだけ秀でた才能がある。
 お母さんが幼少期からやっていたヴァイオリンを彼ら兄妹も習っていた。
 なんでも出来るシウはヴァイオリンに関してだけは並みの実力だったが、それ以上の才能をソヌは持っていた。
 お母さんはソヌを音楽の道に進めたかったが本人には全くもって意志がなく、日々放課後に軽い怪我をして来てはお母さんが肝を冷やしていた。
 やんちゃな性格の彼がヴァイオリンを弾く時だけは静かで大人びる。
 ギャップにやられない訳がない。
 私には彼が王子様に見えて、他の女の子に奪われると焦り出した。
 事務所からの言いつけで付き合うことはできないけれど、気持ちだけは伝えたい。
 それにソヌももしかして私のこと好きなんじゃないかって確信には至らないまでも他の誰よりもソヌと仲がいい自信はあったから。
 中学を卒業した日に彼に手紙を渡した。

 何度も書き直したラブレター。
 はじめは回りくどく文章を書いてすっかり長くなった。
 彼の性格を考えて手短に直球で思いの丈を伝えた方がいい。

“実は出会ったときに一目惚れしちゃった。
ずっとだいすき。
今よりももっと大人になったら、ソヌの彼女になりたい。”

 たった3文、それだけのために可愛い便箋を買いに行った。
 直接渡すのさえ恥ずかしかった私は、彼の家の机の上に置いて逃げるように自宅に帰った。
 しかし返事は、ノーだった。
“俺はユリとは一生幼馴染みでいたい”
 完全に脈がなかったらしい。
 すぐに彼とは距離を取るようになった。
 それと同時にシウと親密になって、少し経った頃に告白された。
 
 事務所の恋愛禁止ルールも破って、失恋の傷を癒してもらっていた。
 シウが彼氏になってから会っていたのは実家ではなく高校生の頃住んでいた家。
 付き合うことになった時に「ソヌには絶対にバレたくない」と言った。
 うちの実家はソヌも自由に出入りできるし危険だ。
 一人暮らししてる家だと2人っきりだし、触れ合うのは至極当然なこと。
 当時、シウは18歳。
 高校3年生でお盛んなお年頃だったからか普段は冷静沈着なシウの全く違う一面を見るようになった。
 私は全部が初めてで、ファーストキスですごく緊張してたのを覚えてる。
 シウも今思えばあまり慣れてなかったな......かわいい。
 
 もうひとりの幼馴染みはというと、こっちからの連絡が減ってもカトクをくれていた。
 実家を出て独り暮らしを始め、デビューした。
 デビュー初日から音楽番組も欠かさずチェックしてくれて励ましの言葉をくれた。
 だけどそれも、私への申し訳なさからの優しさにしか受け止められなくて、私の方からよそよそしく接するようになり、自然と連絡頻度が減った。
 【たまには実家帰ってこいよ】と言われても、【仕事でちょっと難しい】と嘘をつき、彼氏と過ごす時間が増えていった。
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