Too late
——回想《あの日》3——
「ダメ!」
全開のドア。
立ち尽くすソヌ。
愕然としていた。
徐々に眉間に皺を寄せ、汚いものを見る目で私たちを俯瞰する。
「やっ……見ないで」
発情中の彼氏は気づかない。
体格差で押し返すこともできなかった。
もうお終い。
好きな人から嫌われた。
純情なガラスのハートに大きな亀裂が入る。
汚れてしまった。
ショックのあまり、目の前の相手はどうでもよくなって、思い切り蹴り飛ばす。
ようやく私の異変を感じ、いつもの彼に戻った。
「……どうした?」
ベッドから立ち上がって部屋を飛び出した。
私を呼んだ彼のことは無視する。
階段を駆け下りながら乱れた下着を直してシャツのボタンを閉める。
込み上げる涙を堪えて、ソヌの元へ急いだ。
門を出て数歩先に彼の後ろ姿を捕らえる。
「ソヌ……!」
体も心も、声も、震えを抑えきれない。
振り返ったソヌは見たことのない冷たい表情。
目も合わせてくれない。
駆け寄ろうとした私を、
「最低だな」
鋭い目つきと言葉で静止する。
「違うの……違うから、お願い、信じて?」
追いかけようとする体は、知らぬ間にいたシウに背後から腕をまわされ、引き止められた。
斜め後ろを見上げたら、不思議そうに「どうしたの?」と尋ねた。
手を払いのけて正面に振り返ると、ソヌの後ろ姿が遠くなっていっていた。
「ソヌ……」
その日、ソヌは家に帰ってこなかった。
ソヌは次第に夜遊びに走った。
真夜中だった帰りもいつしか朝まで帰らない日が増えて、高校を自主退学するまでに時間はそうかからなかった。
一人暮らしの私は一連の流れ全てを見ていたわけじゃなく、母親から話を聞いていた。
母曰く彼らのお母さんは酷く落ち込んで、母が毎日傍に居て慰めた。
「自分の育て方が悪かった」と自責していたそうだ。
ことの発端が私だなんて口が裂けても言えなかった。
ソヌの未来を奪ったのも、彼のお母さんにとって大事な宝であるソヌを豹変させて彼のお母さんから幸せを奪ったのも、本当はぜんぶ私のせい。
それからすぐにシウには別れを告げた。
かなり一方的だったから彼は当時から今まで納得していないまま。
彼は私が突き放せば突き放すほど私にハマっていった。
出会ってからずっとシウと相方みたいに私の傍にいたソヌ。
シウの顔を見たらソヌのことを考えずにいられない。
彼らのお母さんへの罪悪感が凄まじくて、シウとの交際を続けられるはずもなかった。
初恋の人にあんな姿を見られたこともショックで、あの場で手を出したシウを恨みもした。
実家だからと気を引き締めて、私が拒んでいれば何も起こらなかった。
結局全部自分が悪い。
シウは最初から「勝手に見たアイツが悪い」の一点張り。
別れてからも縁は切れず、罪滅ぼしだと言い聞かせて彼とは友達以上の仲を保った。
実際には、シウの好意を跳ね除けることはしたがらない卑怯な女ってだけ。
シウのこともちゃんと好き。
でも、どうしてもソヌが一番。
必要とされれば来てくれる。
私が甘えると彼氏のような行動を取ってくれる。
都合が良かった。
お互いに欲は満たせているし、上手いこと関係が成り立っている。
不思議な関係性に満足していたのは私だけで、彼は募る不満を徐々に大きくさせていた。
「俺としかシてない?」
「俺って何番目?」
「友だちじゃなくて彼氏がいい」
シウにそんな台詞を言わせて、彼の愛を確認していたこの数年。
彼はもう、納得してくれないらしい。
「ダメ!」
全開のドア。
立ち尽くすソヌ。
愕然としていた。
徐々に眉間に皺を寄せ、汚いものを見る目で私たちを俯瞰する。
「やっ……見ないで」
発情中の彼氏は気づかない。
体格差で押し返すこともできなかった。
もうお終い。
好きな人から嫌われた。
純情なガラスのハートに大きな亀裂が入る。
汚れてしまった。
ショックのあまり、目の前の相手はどうでもよくなって、思い切り蹴り飛ばす。
ようやく私の異変を感じ、いつもの彼に戻った。
「……どうした?」
ベッドから立ち上がって部屋を飛び出した。
私を呼んだ彼のことは無視する。
階段を駆け下りながら乱れた下着を直してシャツのボタンを閉める。
込み上げる涙を堪えて、ソヌの元へ急いだ。
門を出て数歩先に彼の後ろ姿を捕らえる。
「ソヌ……!」
体も心も、声も、震えを抑えきれない。
振り返ったソヌは見たことのない冷たい表情。
目も合わせてくれない。
駆け寄ろうとした私を、
「最低だな」
鋭い目つきと言葉で静止する。
「違うの……違うから、お願い、信じて?」
追いかけようとする体は、知らぬ間にいたシウに背後から腕をまわされ、引き止められた。
斜め後ろを見上げたら、不思議そうに「どうしたの?」と尋ねた。
手を払いのけて正面に振り返ると、ソヌの後ろ姿が遠くなっていっていた。
「ソヌ……」
その日、ソヌは家に帰ってこなかった。
ソヌは次第に夜遊びに走った。
真夜中だった帰りもいつしか朝まで帰らない日が増えて、高校を自主退学するまでに時間はそうかからなかった。
一人暮らしの私は一連の流れ全てを見ていたわけじゃなく、母親から話を聞いていた。
母曰く彼らのお母さんは酷く落ち込んで、母が毎日傍に居て慰めた。
「自分の育て方が悪かった」と自責していたそうだ。
ことの発端が私だなんて口が裂けても言えなかった。
ソヌの未来を奪ったのも、彼のお母さんにとって大事な宝であるソヌを豹変させて彼のお母さんから幸せを奪ったのも、本当はぜんぶ私のせい。
それからすぐにシウには別れを告げた。
かなり一方的だったから彼は当時から今まで納得していないまま。
彼は私が突き放せば突き放すほど私にハマっていった。
出会ってからずっとシウと相方みたいに私の傍にいたソヌ。
シウの顔を見たらソヌのことを考えずにいられない。
彼らのお母さんへの罪悪感が凄まじくて、シウとの交際を続けられるはずもなかった。
初恋の人にあんな姿を見られたこともショックで、あの場で手を出したシウを恨みもした。
実家だからと気を引き締めて、私が拒んでいれば何も起こらなかった。
結局全部自分が悪い。
シウは最初から「勝手に見たアイツが悪い」の一点張り。
別れてからも縁は切れず、罪滅ぼしだと言い聞かせて彼とは友達以上の仲を保った。
実際には、シウの好意を跳ね除けることはしたがらない卑怯な女ってだけ。
シウのこともちゃんと好き。
でも、どうしてもソヌが一番。
必要とされれば来てくれる。
私が甘えると彼氏のような行動を取ってくれる。
都合が良かった。
お互いに欲は満たせているし、上手いこと関係が成り立っている。
不思議な関係性に満足していたのは私だけで、彼は募る不満を徐々に大きくさせていた。
「俺としかシてない?」
「俺って何番目?」
「友だちじゃなくて彼氏がいい」
シウにそんな台詞を言わせて、彼の愛を確認していたこの数年。
彼はもう、納得してくれないらしい。