演劇部の宇良先輩がやたらとグイグイ来るのですが?

「イヤァ――ッ」

 周囲で一斉に女子の叫び声が聞こえる。
 なに……この絵画の中から出てきたような美しい男子《ひと》は。
 私の背中をすごく大切なものを抱えるように膝をついている。

「あ、すみません」
「宇良先輩大丈夫ですか~ッ」
「心配はいらないよ」

 あわてて、立ち上がり頭を下げる。
 そばにいた同じ一年の女子が、目の前に立っている超絶イケメンの先輩の名を口にした。
 
 わかったかも……。
 この大勢の女子たちのお目当て。

 私のようなモブ的存在が、ドラマの主人公あるいは白馬の王子さまに気にかけてもらうなんて。これが脚本なら一発でOUTをもらう。

「あの……これ入部届です」

 まわりの視線が痛い。
 すぐさま受付していた先輩の女子にすでに記入済みの入部届を提出して、そそくさと後方へ逃げるように移動した。

 こわかった~ッ。
 いきなりスポットライトを浴びた気分。気の利いた言葉なんて今の私にはとてもではないが、出て来ない。
 
 その日、一年生は、明日から始まる部活動の内容を先輩たちから聞いて終わりだった。
 
 私の高校での目標は「目立たずそこそこな学園生活」を送ること。
 志が低い?
 恋や部活に熱い気持ちをぶつける?
 いえいえ、平凡がいちばん。自分の身の丈は自分がいちばんよく知っている。

 ──なのに。


「おはよう、(とこ)ちゃん」
 
 宇良先輩が私の名を呼び、あいさつをしてきた……。 
 




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