演劇部の宇良先輩がやたらとグイグイ来るのですが?
「私、もう学校には行けません」
「そのことで来たんだ」
「え……」
宇良先輩は、都成先輩とふたりで真犯人……1年の私を嫌っている女子を探し出し、私への憎悪で行為に及んだことを白状させたうえで、教師陣に許可を取り、校内放送で演劇部内の内輪揉めで起きた冤罪であることを説明して、校内はおおむね鎮静化したそうだ。あの女子は吊るし上げにはしなかったが自主退部を促し、2日前に演劇部をやめたそうだ。
「宇良先輩……」
「なに?」
「ひとつ聞いていいですか?」
いいよと返事をもらって気になっていることを質問する。
私の住所は教職員じゃないと知り得ない情報。私は高校になって誰にも自分の住所を教えていない。
「オレがなんで”常ちゃん”って呼ぶか知ってる?」
「え? いえ」
宇良先輩は私に会ってすぐに下の名前で呼び始めた。
考えてみたら他の女の子は苗字呼びなのに、だ。
「雨男《あめお》って覚えてない?」
「雨男? ……あっ」
思い出した。
私が小学1年生の頃、近くの公園にいた雨男と言われ、まわりの子ども達からハブられていた男の子がいた。でも……。
「オレさ、中学入ってから背が伸びて、すごく痩せたから、小学生時代の同級生はオレってわからないみたい」
雨男と呼ばれていた男の子は周りの子よりも背が低く、かなり太って眼鏡もかけていた。いつも公園の隅っこでアリの行列を眺めている変わった子でてっきり私は自分より年下だと思っていた。