演劇部の宇良先輩がやたらとグイグイ来るのですが?
第2話 距離感がバグってる
「え、はい、おはようございます」
どういうこと?
なぜ宇良先輩が私の名前を?
心臓がバクバクしている。
「あ、あの……」
「宇~良くん、遅刻しちゃうよ~?」
「あ、はい、じゃあまた放課後ね、常《とこ》ちゃん」
上級生の先輩と思われる女子に肩を叩かれて、宇良先輩は笑いながらふたりで校舎の中へ消えていった。
ひそひそと声が聞こえる。周りをみると冷たい視線。
まずい。これは悪目立ちというヤツ……。
私がもっとも恐れている平凡な日常をたやすく破壊してしまう悪魔のようなアクシデント。
すばやく移動して自分のクラス、自分の席に腰を落ち着け、頭を抱える。
思考が迷走を始める。
昨日、初めて会った先輩に下の名前で呼ばれた……それも“ちゃん”づけ。
どどどどどどゆこと? ぜんぜん理解ができない……。
そうだ! 逆から考えてみよう。
えーと、私の下の名前を知っているのは、昨日提出した入部届。あれをみれば私の学年、クラス、名前はわかる。でも問題は“ちゃん”づけの方。宇良先輩ってモテまくりのはずだから、やっぱり近くにいる女子には平等に優しく接する仏系イケメンなのかな?
それにしては周囲の視線が痛かった気が……。
もしくは、私が忘れているだけで、実はどっかであったことがある?
──いや、それはない。
あんな黄金に光り輝く顔面オーラ、一度みたらゼッタイ忘れるわけがない。
うーん、本事件は迷宮入りする予感がする。
悩んでもしょうがない。とにかく宇良先輩にはなるべく近づかない。それが私の幸せな学園生活を送るために課せられた必須条件。
そう自分に言い聞かせていたのに……。