パルティータの調べに合わせて
第11話
瑠美と別れた後、瑞穂は再び展望台のフェンスの近くまでいった。瑞穂と修と裕一が中学時代を共に過ごした町並みの、頂上からの景色がフェンス越しに広がっていた。所々で太陽の白い光を反射させている町並みを眺めている瑞穂の脳裏に、中学時代に3人で過ごした映像がスクリーンに映し出されたスライドのように、次から次へと浮かび上がってくるのであった。クラスで一番成績の良かった修を瑞穂は尊敬していた。瑞穂の成績は数字上では修に次ぐものであったが、修と瑞穂の成績には格段の差があった。瑞穂の修に対する尊敬から出ている感情には揺るぎないものがあった。瑞穂には中1のときから少しずつ目覚めてきた恋愛に対する憧れへの感情があった。その感情が知らず知らずのうちに修への尊敬の感情と融合していったのである。
修の誕生日に瑠美はサンドイッチを作ってきてくれた。瑞穂が頂上についたときには瑠美はもうすでに来ていた。前回と同じ場所にレジャーシートが敷かれていた。瑠美はランチボックスの入ったバッグを両手に持ち、展望台のほうを見つめていた。瑠美がバックから出したランチボックスとペットボトルを、瑞穂がレジャーシートに並べていると、裕一がやって来た。裕一の目が少し赤いことに瑞穂は気づいた。レジャーシートに三人で座ってサンドイッチを食べている間、裕一が必死に泣くのを堪えていることが、手に取るように分かった。修と裕一と瑞穂の三人でランチを食べる時、裕一が必ずと言っていいほど最初に食べ終わっていた。しかし今目の前にいる裕一は、瑞穂と瑠美が食べ終わってもまだ食べていた。裕一が食べ終わった時、泣くのを堪える限界であることが瑞穂には分かった。瑠美がランチボックスとペットボトルをバッグに仕舞うのを手伝った後、瑞穂はすぐに瑠美を誘って展望台へと行った。瑠美が望遠鏡を覗いている間、後ろを振り向くと嗚咽している裕一が見えた。レジャーシートが敷いてあるところへ戻ろうとした瑠美を引き留めようと思い、瑞穂はフェンス越しに見える街について、瑠美に説明を始めた。
瑞穂は修の誕生日に、自分たちが中学時代に過ごした街の小高い山の頂上で、展望台に今立っているのに、全く涙が出ていない自分に驚いていた。展望台からレジャーシートに座っている裕一を見て、彼が泣きながら震えているのが分かって、それに同情して泣きそうになった自分を今思い出して、瑞穂はそのことに驚いていた。中学の時吹奏楽部の部長だった瑞穂は、クラスにずば抜けた音楽の才能のある男子生徒がいるということを耳にして、その生徒が裕一であることを知った時、最初その意外性に驚いた。裕一はクラスで成績のいい方ではなかった。瑞穂には音楽が出来る人は成績もいいという固定観念があった。裕一は瑞穂の固定観念を打ち砕いた最初の人であった。顧問の音楽教師が出張で不在であった時、瑞穂にはどうしてもわからなかった楽譜のフレーズを、裕一はいとも簡単にピアノで弾いて聞かせてくれた。
瑞穂と修が大学を卒業して新社会人になった時、高卒の裕一は小さなIT企業勤務であったが、着実に実績を築いていた。瑞穂と修は大学でパソコンを覚えたが、ワードでレポートを書いたり、エクセルで簡単な計算をしたり、パワーポイントでプレゼンテーションをしたくらいのことであった。裕一はパソコンを独学で学んでいた。裕一はパソコンの設定をしたり修理をしたり、プログラムを組んだりと、修や瑞穂とは別次元のことを独学で学んでいたのである。修の学力に対して持っていた尊敬の感情と同じ感情を、裕一に対してもいつの間にか持っていることに、ある日瑞穂は気がついて唖然とした。いままで恋愛感情だと思っていた修にたいする感情が、実際は恋愛感情ではないことに、その時瑞穂は気づいたのである。それは修と二人だけでデートしようと決めて、コンサートのチケットを購入した後のことであった。コンサート前日の夜、修からのメールで裕一と行くことになったことを知ったとき、内心嬉しくなった自分に気づいて、瑞穂は嫌悪感と愛着の交じった言いようもない感情を自分自身に対して感じた。コンサート当日、裕一はアンコール曲の演奏が終わるとすぐに「横川さん。言うのを忘れていたけど、これからすぐ仕事にいかなければならないんだ」と言って席を立って、観客の拍手喝采がまだ続いているざわめきの中、通路を足早に歩いて行った。内心寂しかった瑞穂はすぐにヴァイオリニストの方を向いて拍手をし始めたが、すぐに拍手をやめて通路の方を見た。通路を一人足早に歩いている裕一の後ろ姿が見えた。その後ろ姿を見て締め付けられるような寂しさを瑞穂は感じた。
フェンス越しに町並みを眺めている間に、かなりの時間が経過したことに瑞穂は気が付かなかった。いつのまにか沈みかけた太陽が街全体に赤みがかった光を浴びせていた。街の至るところで太陽の赤い光を反射させていた。ある一点の赤い光が際立って光り輝いていた。瑞穂の目はその輝きに引き寄せられるように、その一点を見つめた。その赤い光の出処は裕一と修と瑞穂が通っていた中学の校舎であった。遠くから見ている瑞穂には知るすべもなかったが、その一点の赤い光を反射さていたのは、裕一と修と瑞穂が3年の時使っていた教室の窓ガラスであった。
修の誕生日に瑠美はサンドイッチを作ってきてくれた。瑞穂が頂上についたときには瑠美はもうすでに来ていた。前回と同じ場所にレジャーシートが敷かれていた。瑠美はランチボックスの入ったバッグを両手に持ち、展望台のほうを見つめていた。瑠美がバックから出したランチボックスとペットボトルを、瑞穂がレジャーシートに並べていると、裕一がやって来た。裕一の目が少し赤いことに瑞穂は気づいた。レジャーシートに三人で座ってサンドイッチを食べている間、裕一が必死に泣くのを堪えていることが、手に取るように分かった。修と裕一と瑞穂の三人でランチを食べる時、裕一が必ずと言っていいほど最初に食べ終わっていた。しかし今目の前にいる裕一は、瑞穂と瑠美が食べ終わってもまだ食べていた。裕一が食べ終わった時、泣くのを堪える限界であることが瑞穂には分かった。瑠美がランチボックスとペットボトルをバッグに仕舞うのを手伝った後、瑞穂はすぐに瑠美を誘って展望台へと行った。瑠美が望遠鏡を覗いている間、後ろを振り向くと嗚咽している裕一が見えた。レジャーシートが敷いてあるところへ戻ろうとした瑠美を引き留めようと思い、瑞穂はフェンス越しに見える街について、瑠美に説明を始めた。
瑞穂は修の誕生日に、自分たちが中学時代に過ごした街の小高い山の頂上で、展望台に今立っているのに、全く涙が出ていない自分に驚いていた。展望台からレジャーシートに座っている裕一を見て、彼が泣きながら震えているのが分かって、それに同情して泣きそうになった自分を今思い出して、瑞穂はそのことに驚いていた。中学の時吹奏楽部の部長だった瑞穂は、クラスにずば抜けた音楽の才能のある男子生徒がいるということを耳にして、その生徒が裕一であることを知った時、最初その意外性に驚いた。裕一はクラスで成績のいい方ではなかった。瑞穂には音楽が出来る人は成績もいいという固定観念があった。裕一は瑞穂の固定観念を打ち砕いた最初の人であった。顧問の音楽教師が出張で不在であった時、瑞穂にはどうしてもわからなかった楽譜のフレーズを、裕一はいとも簡単にピアノで弾いて聞かせてくれた。
瑞穂と修が大学を卒業して新社会人になった時、高卒の裕一は小さなIT企業勤務であったが、着実に実績を築いていた。瑞穂と修は大学でパソコンを覚えたが、ワードでレポートを書いたり、エクセルで簡単な計算をしたり、パワーポイントでプレゼンテーションをしたくらいのことであった。裕一はパソコンを独学で学んでいた。裕一はパソコンの設定をしたり修理をしたり、プログラムを組んだりと、修や瑞穂とは別次元のことを独学で学んでいたのである。修の学力に対して持っていた尊敬の感情と同じ感情を、裕一に対してもいつの間にか持っていることに、ある日瑞穂は気がついて唖然とした。いままで恋愛感情だと思っていた修にたいする感情が、実際は恋愛感情ではないことに、その時瑞穂は気づいたのである。それは修と二人だけでデートしようと決めて、コンサートのチケットを購入した後のことであった。コンサート前日の夜、修からのメールで裕一と行くことになったことを知ったとき、内心嬉しくなった自分に気づいて、瑞穂は嫌悪感と愛着の交じった言いようもない感情を自分自身に対して感じた。コンサート当日、裕一はアンコール曲の演奏が終わるとすぐに「横川さん。言うのを忘れていたけど、これからすぐ仕事にいかなければならないんだ」と言って席を立って、観客の拍手喝采がまだ続いているざわめきの中、通路を足早に歩いて行った。内心寂しかった瑞穂はすぐにヴァイオリニストの方を向いて拍手をし始めたが、すぐに拍手をやめて通路の方を見た。通路を一人足早に歩いている裕一の後ろ姿が見えた。その後ろ姿を見て締め付けられるような寂しさを瑞穂は感じた。
フェンス越しに町並みを眺めている間に、かなりの時間が経過したことに瑞穂は気が付かなかった。いつのまにか沈みかけた太陽が街全体に赤みがかった光を浴びせていた。街の至るところで太陽の赤い光を反射させていた。ある一点の赤い光が際立って光り輝いていた。瑞穂の目はその輝きに引き寄せられるように、その一点を見つめた。その赤い光の出処は裕一と修と瑞穂が通っていた中学の校舎であった。遠くから見ている瑞穂には知るすべもなかったが、その一点の赤い光を反射さていたのは、裕一と修と瑞穂が3年の時使っていた教室の窓ガラスであった。