お飾り妻は嫌われたい！～愛のない契約結婚のはずが、旦那様がなぜか離してくれません～

　一方的に侮辱(ぶじょく)されて内心すごく不愉快だけれど、こういう人になにを言っても通じない。
　私は「我慢、我慢……」と自分に言い聞かせて、微笑みを崩さず耐え抜いた。

　そうして見合いを終えて王都にあるオルティス伯爵家の別宅に戻れば、父もチェスター侯爵からひどい扱いを受けていたようで、珍しく声を荒らげて怒り出す。

「侯爵の明らかにこちらを見下した態度、思い出すだけでも腹が立つ！　この縁談はなかったことにする!!　そう今すぐ言ってやりたいところだが、今後のことを考えると、うちから断るのは……。はぁ、厄介な相手に目をつけられてしまった。さて、どうしたものか」

「お父様、きっと大丈夫です。カイン様は私のことを気に入らないご様子でしたから、おそらくお断りになってくるはずです」

「そうか？　では、もう少し様子を見るとしようか……。まぁ、考えてみれば今日顔合わせをしたばかりだし、お前も侯爵子息もまだ若い。このまますぐに婚約になるとは思えないからな」

　私も父も、この見合い話は流れるだろうと思い、安心していたのに……。