今日も世界は愛で満ちてるというのに私の世界に愛は無い~愛を知らない私は愛を乞う

 *

 歩夢の退院の日、病棟はちょっとした騒ぎになっていた。

「王子と姫がいなくなってしまう」

「ああ……私達は何を楽しみに仕事をすれば良いの」

「行かないで、私達の癒やし」

 そんな看護師達を見て、看護師長が溜め息を付いた。

「あなた達、いい加減にしなさい!勤務中でしょうが、患者さん達が待っているのよ。行きなさい」

 その一声で、看護師さん達は後ろ髪を引かれるようにこちらを見ていたが、仕事に戻っていった。

「うちの看護師達が本当にすみません」

 そう頭を下げる看護師長さんにこちらも頭を下げる。

「いえ、こちらこそ大変お世話になりました。煽ったのは私ですし、看護師さん達を叱らないで下さい」

「分かりました。お二人とも、お大事にして下さいね」

 笑顔でそう言われ、歩ちゃんと共に頭を下げて病院を出た。

 まだ日差しの暑い空を二人で見つめながら手を繋ぐ。

「歩ちゃん、帰ろう」

「はい!」




< 106 / 132 >

この作品をシェア

pagetop