今日も世界は愛で満ちてるというのに私の世界に愛は無い~愛を知らない私は愛を乞う
嬉しそうな歩夢を見ながらタクシーに乗り込み、20分もすると歩夢のアパートに到着した。私がここに来るのは吉川さんと鉢合わせて以来だ。歩夢に促されて部屋に入ると、吉川さんの形跡は何も無かった。それに少し安堵する。
「愛花さん紅茶で良いですか?それともコーヒー?」
「あっ、良いよ。私がする。歩ちゃんは座ってて」
私は歩夢に駆け寄り、ポットに水を入れる。その様子をジッと歩夢が見つめてきた。
「何?どうしたの?」
「愛花さんいる……」
「何それ?」
私は歩夢の言葉にふふっと笑うと、表情を変えずに歩夢が話し出した。
「病院では何て言うか、非日常というか、愛花さんが側にいても夢の中にいるような感じだったんです。でもこうして日常の中にいる愛花さんを見て、本当に愛花さんが側にいてくれるんだと思ったら僕……」
歩夢の瞳に涙の膜が浮かび、ユラユラと揺れている。それを見た愛花は、歩夢の頬を両手で包み込み瞼にキスをした。
「現実だよ。私は歩ちゃんの側にいるって言ったでしょう」
「愛花さん……」
歩夢の瞳が私を捕らえる。その瞳は熱く、私を求めているのが分かる。歩夢の手が私の頬を撫でた。いつもとは立場が逆転しているが歩夢が優しく愛おしそうに私に触れてくる。
そして重なる唇。
チュッと言うリップ音から、ゆっくりと舌が絡み合う深いキスに変わる。
「愛花さん、良いですか?」
「うん。でも、頭の傷は大丈夫?」
「もう平気です。それより愛花さんが欲しいです」
「しかたないね……」
二人の唇がもう一度重なると、二人の体も寄り添うように重なる。歩夢が愛花を求めるように揺さぶり、それを受け止める愛花。これまで離れていた時間を埋めるように、歩夢は愛花を求め続けた。