今日も世界は愛で満ちてるというのに私の世界に愛は無い~愛を知らない私は愛を乞う

 父に見送られ、僕はエレベーターに乗り込む。一階のボタンを押すと、続々と各階から社員が乗り込んできて挨拶をされた。ロビーに出ると腕に誰かが絡みついてきた。会社でこんなことが出来るのは一人だけだ。

「歩夢、今日は早いんだねぇ。一緒にご飯でも行こうよぉー」

「吉川さん、申し訳ないけど先約があるんです」

「えぇー。それってあの子のこと?えっと愛花さんだっけぇ?」

「そうです。だから離して下さい」

 迷惑だというように、腕に絡みついた吉川さんを突き放そうとするが、なかなか離してくれない。何処からこんな力が出てくるんだと思いながら時計を見ると、愛花さんとの待ち合わせ時刻が近づいていた。

「いい加減にして下さい」

 そういった時、前から黒い服を着た人が……。

「あれー?吉川さんじゃっん。また会ったね」

 そう言って笑っている愛花さんの目は笑っていない。

「悪いけど、その手をどけてくれる?」




< 109 / 132 >

この作品をシェア

pagetop