今日も世界は愛で満ちてるというのに私の世界に愛は無い~愛を知らない私は愛を乞う

 僕の腕に絡みつく吉川さんの手を見て冷ややかに笑う愛花さんが怖い。こんな愛花さんは見たことが無い。固まっている僕に、愛花さんが少し顎を上げながら目を細めた。

「歩夢おいで」

 手のひらを上に上げた状態で人差し指をクイクイと動かし、僕をこちらに呼ぶ。それだけで僕の体は無意識に愛花さんに引き寄せられる。先ほどまですり抜けることの出来なかった腕をするりとすり抜け愛花さんの前に行くと、愛花さんがよしよしと頭を撫でてくれた。それだけで心が躍る。もっとよしよしされたい。されるがままでいると、吉川がヒステリックに声を荒げた。

「ちょっと!私のこと無視しないでよ!なんなの、いきなり出てきて良い所で歩夢を連れていくの止めてちょうだい」

「あんたうるさいな。自分がどんなに恥ずかしい姿か分かってる?」

「恥ずかしいって、そっちこそ男みたいな格好で恥ずかしくないの?」

 愛花さんは自分の姿を見てから僕を見た。

「似合わない?」




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