今日も世界は愛で満ちてるというのに私の世界に愛は無い~愛を知らない私は愛を乞う

 吉川は愛花に向かって手に持っていた物を振り上げる。僕は愛花さんを庇おうと前に出るが、それを愛花さんに制されてしまう。次の瞬間、愛花さんは吉川さんの手を捻り上げ床に組み敷いた。

 お見事っと思わず声に出してしまいそうな動きに僕は見とれた。

 見惚れてしまった。

 僕の彼女は本当に格好いい。

「「「おおっーー!」」」

 という回りの声が聞こえてくる。吉川の手に持っていたのはボールペンだった。ナイフのような凶器では無いが刺されば痛い。そんな物を振り上げて向かって来るとは……。組み敷かれたままの吉川を警備員が取り押さえに来た。警備員に取り押さえられた吉川は暴れながらも奇声を上げ、暴言を吐き続けていた。この位置からなら防犯カメラが一部始終を記録していることだろう。警備員が警察を呼んだのか、吉川はパトカーに乗せられた。吉川はもう会社には来られないだろう。こんな事件を起こし、解雇は免れない。警察のお世話にもなって転落の人生だろう。大人しくしていれば、この会社にいられたのに。そう言えば塚田はいつの間にか会社を辞めていた。皆から後ろ指を指されながらの仕事に、心と体が病んでしまったようだ。二人ともバカなことをしたもんだと思う。塚田と吉川の後ろで取り巻きをしていた数人の同期達も、退職したり移動願いを出したりしたようで、皆バラバラになったらしい。吉川の乗ったパトカーを見送ると、警察官に僕たちも事情聴取をと言うことで話を聞かれ、気づいた時には夜も遅い時間になっていた。



< 112 / 132 >

この作品をシェア

pagetop