今日も世界は愛で満ちてるというのに私の世界に愛は無い~愛を知らない私は愛を乞う

「あんた達良く生きてたわね……車に轢かれたり、女に襲われたり、まるでドラマじゃない。恐ろしいわ。私達ゲイはそれなりに場数を踏んでいるけど、あんた達その比じゃない人生歩んでるわよ」

 はぁーーっと大きく溜め息を付く徹子ママを見て、私達は笑い合った。

「徹子ママ、それで私達お腹が空いているの。何か美味しい物を作ってよ」

「任せなさい。あんたの好きな物、何でも作って上げるわよ」

「やったー!徹子ママ大好き!」

 そう言うと、隣で歩夢が頬を膨らませた。

「好きって……僕、そんなこと言われたことない」

「まあ、そうだね。私に好きや愛は分からないからね?」

「でも徹子ママには言った」

「ん?言葉だけで意味は無いけど良いの?」

「はい!」

 感情がこもっていなくても、こんなことを言っても良いのだろうかと思ったが、歩夢はこちらを期待した面持ちで見つめている。

 それなら……。

「歩夢、愛してるよ」

 満面の笑みでそう言うと、歩夢の顔が一気に赤く染まる。

「うわっ、好きって言ってもらうだけだったのに……あっ……愛……愛してるって……やばいです。心臓が……僕、死ぬかも……」

 真っ赤になりながら悶え苦しむ歩夢に私は、呆れながら声を掛ける。

「おーーい。大丈夫か?」

「ダメ……かも……しれません」

 なおも苦しみ続ける歩夢の頭をよしよししながら、歩夢の顔を覗き込む。

 ホントに歩ちゃんは可愛い。

 何でも無い時間が戻ってきた。

 私はそれが嬉しくて笑った。




 
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