今日も世界は愛で満ちてるというのに私の世界に愛は無い~愛を知らない私は愛を乞う
私は徹子ママの名前を呼んでグッと親指を立てた。今日の徹子ママはスーツを着ていて、男性の姿をしている。だからあえて徹子ママでは無く本名で名前を呼んだ。感謝の意味を込めて、私はこのブーケを徹子ママに渡したかった。私達がこうしてここで結婚式を挙げられるのは徹子ママのおかげだと思っている。
ずっと私達を見守っていてくれたこの人に。
私達は感謝の気持ちを形で伝えたかった。
徹子ママは私が高校生の時からずっと見守ってくれていた、もう一人のお母さんだ。こうして歩ちゃんと歩んでいけるのは、徹子ママがいたからだ。
私はこのブーケをどうしても徹子ママに渡したかった。
徹子ママにも幸せになってもらいたかったから……。
ブーケを手にした徹子ママは目を丸くしていたけれど、すぐにその顔が嬉しそうに歪む。
「もう、あんた達は……泣かせるんじゃ無いわよ」
徹子ママの言葉使いがいつもの様になっているけど、回りはあまり気にしていない様子だ。
良かった。
私は綺麗な青空の下で、とびっきりの笑顔を見せた。
幸せだ。
愛がわからなくても、人を好きになれなくても、私は回りの人達に恵まれていた。おかげでこんなに幸せな気持ちになれている。これからも私は人を愛することは出来ずに、演技をし続けるだろう。それでも回りが幸せで、笑顔を見せてくれるなら私は演技をし続ける。
皆が幸せなら私も幸せだから……。
愛を知らない私は、誰よりも愛を乞うていた。そんな私が今願うのは自分が誰かを愛することでは無く、皆と私達の幸せだ。