今日も世界は愛で満ちてるというのに私の世界に愛は無い~愛を知らない私は愛を乞う
そっと体を動かさずに視線だけを向けると、宝田の後ろに一人の男が立っていた。ボサボサの髪に皺の出来たシャツ姿の男性は、薄暗い店内にいても分かるぐらい顔色が悪かった。風が吹いただけでもフラついてしまうような足取りで、男性はカウンター席に座った。男性が座ったのは愛花の座っている椅子を一つ空けた隣の席だった。
「宝田ちゃん、とりあえず話す前に飲み物用意するわよ」
「あー、うん。そうだよね。俺クラフトビールで。お前もそれでいいか?」
宝田の問いに、連れてこられた男性はコクリと頷いた。徹子ママが宝田と男性の前にクラフトビールのビンを置くと、宝田がビンを片手で持ち上げた。
「おい歩夢元気出せって!今日はとことん付き合ってやるからさ」
宝田にビンを掲げられ、男性はクラフトビールのビンに手を伸ばす。それを見て宝田が「カンパーイ」と言いながらビンをぶつけた。宝田だけが楽しそうにビンに口を付けるが、男性はビンに口を付けようとはしない。
この人何しにここに来たんだろう?
ここがゲイバーだって分かっているのかな?
多分この人ノンケだよね?
ノンケとは男性が好きなゲイではなく、異性が普通に好きの人のことを指す言葉だ。
そんな人がどうして……まあ、宝田さんに無理矢理つれてこられたんだろうけど……。