今日も世界は愛で満ちてるというのに私の世界に愛は無い~愛を知らない私は愛を乞う
私には良く聞き取れなかったが、カウンター側にいた徹子ママには声を拾うことが出来たのか、自分の両腕を抱きしめながらさすっていた。一般的には寒いときにする動作だが、何か体が寒くなるようなことを歩夢が言ったことは間違いない。私は歩夢の言葉が知りたくて、そっと徹子ママに視線を向けるとスッと視線を逸らされた。
あっ……これ、聞かない方が良いやつなんだろうなと、何となく徹子ママの態度で分かった。
忘れていたが、こいつはストーカーで警察沙汰になりかけるような人間なのだ。少し距離を取った方が良いのかもしれない。そう思ったが、この人の世界が知りたいとも思った事を思い出した。ストーカーになるほど人を愛する事の出来るこの人が羨ましいとも思ったのだ。
「歩夢……」
「はい!何ですか愛花さん」
歩夢は黒いビー玉みたいな瞳をキラキラさせながら、愛花に声を掛けた。二人の様子を見ていた徹子ママと周りの人達はこいつまるで犬だな、と思いながら一歩引いて見守った。