今日も世界は愛で満ちてるというのに私の世界に愛は無い~愛を知らない私は愛を乞う

 吉川の声を無視して、歩夢は私を後ろから包み込んだ。

「ダメです。この人は渡さない」

 シーーン。

 店内が一瞬静まり返った。しかしすぐに男が、ゲタゲタと笑い出した。

「おい、おい、おい、歩夢まさかと思うけどよ。女がダメだからって、そっちに行ったのかよ」

 ホントにこいつら……ガキの集まりか?

 私は歩夢の首元を掴むと、私の方へと引き寄せ、驚く歩夢の唇に自分の唇を押し当てた。それから歩夢の唇を食むように口を動かし、大人なキスを見せつける。すると回りから悲鳴が上がった。それを無視して愛花はペロリと舌なめずりをしながら口角を上げた。

「悪いかよ。歩ちゃんはお前と違って可愛いからな。そういうわけだから吉川さんごめんね。歩ちゃんがダメって言ってるからもう行くわ」

 全く悪く思っていないごめんを吉川に向かって言ってから、その場から立ち去る。しかしここでハッと我に返った。私も随分と大人げないことをしてしまった。私はレジの定員さんの方へと視線を向けながら、胸に付いた名札の名前を確認した。

「金井さん、お騒がせしてすみませんでした。また飲みに来ますね」

 なるべく周りを不快にさせないよう、好感度の上がるような笑みを浮かべると、金井さんの頬がポッと赤染まる。

 これで大丈夫だろう。

 きちんと謝罪をし、歩夢の手を握りしめるとその場を後にした。その時の手は、しっかりと恋人つなぎにしておいた。



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