今日も世界は愛で満ちてるというのに私の世界に愛は無い~愛を知らない私は愛を乞う
「塚田さんもう諦めなよ。歩ちゃん虐めて追い詰めてさ。これ以上人として外れたことすると後が無いよ。この会社にもいられなくなっちゃうんじゃ無い?」
「うるせえ!お前は黙ってろ!歩夢が悪いだろうが!」
「まるで子供だな。言っとくけど、これ以上私の歩ちゃん虐めてみろ、ただじゃ置かないからな」
言い合いを始めた私達の間には入ってきたのは意外にも社長だった。
「そこまでだ。もういい。皆、今日は解散だ。後日詳しい話は聞く。歩夢もそれでいいな」
社長が一社員である歩夢の名前を呼んだことに皆が驚きを見せる。そして歩夢はコクリと頷いた。
「はい……」
素直に返事をする歩夢に塚田が、震える唇で聞いた。
「お前……どういうことだ?」
それに答えたのは社長だった。
「歩夢は私の息子だからね。名前で呼ぶのは当たり前だ。ああそうか、これは秘密だったね」
社長は口角を上げながら、冷めた目で塚田を見ながら笑った。それを見て塚田が青ざめたのは言うまでもない。それから社長は私を見てニコッと笑った。塚田に向けた冷笑とは違い、慈愛に満ちた優しい微笑みだった。
「君は歩夢と仲良くしてくれているみたいだね。今度一緒に食事をしよう」
そう言って社長は颯爽とその場を去って行った。社員達もそれに倣うように、ぞろぞろと帰って行く。
残されたのは私と歩夢、酒賀部長、吉川、塚田の5人だったが、私と歩夢は酒賀部長に促され、帰ることにした。そっと振り向くと、肩を落とした吉川と、ブツブツと呟く塚田の姿があった。