婚約者候補は辞退させてくださいませっ!
「こちらが、マリーベルさまのお部屋になります。荷物はこちらに置かせていただきますね。食事は食堂で摂ることになっています。後ほど迎えに参ります。本日はお疲れでしょうから、部屋でお休み下さい。明日から体験をいたしましょう。それでは後ほど」

荷物を置いた後、流れるような動作で一礼してニコライは退室した。

その手慣れた一連の動作に、今までも沢山の滞在者を案内してきたことが察せられる。


「ありがとうございます。ニコライさま」


ニコライ様を見送ると、部屋の中を一通り見て回った。

自室と比べると、かなり小さな部屋だ。
ベッドとソファーが設置してあり、洗面所もあった。生活するには充分な部屋だ。

しばらくすると女性の神官の方が尋ねて来た。

彼女から着替えの仕方や、部屋の掃除の仕方、生活するにあたっての注意事項など色々教わった。

私はいつも立っているだけで、周りのみんなが着替えさせてくれていた。

髪を結ってくれたり、装いに似合うアクセサリーや靴を選んでくれた。
自分の意志で全部決めたことはない。

大抵「お嬢様にはこういった感じのものがお似合いだと思います」「お嬢様がお好きそうな━━」

と、全部選んでくれていた。確かに素敵だったので、チョイスは任せていた。

そういう生活が当たり前だと思っていたけれど、本当にそうかしら。


私の好きな色って何色なんだろう。

私に似合う色ではなくて。

部屋だっていつも綺麗なのが当然だった。

毎日掃除してくれていることに関して、私は何も思っていなかった。


ホコリって溜まるものなのね。

髪の毛も、知らないうちに抜けて床に落ちているのね。

手を洗うだけでも、水が飛び散ってしまう。

いつも誰かが、拭き取ってくれていたのね。

掃除するのって大変だわ。

何もかもが新鮮で、驚きや発見もあり嬉しいのと同時に、不安もあった。


ここで自己修練を積んで、アーサーさまの望んでいる人になれるといいのだけど。

あの三つの言葉というか条件、クリアできるかな

むしろ、ここで努力しても何も変われなかったと伝えたら、今度こそ辞退できるかもしれない。

大丈夫かしら……


そうこうしていると、夕方になっていた。

ニコライが部屋を訪れて、マリーベルを食堂へと案内した。

記憶力が悪いので、部屋の場所を覚えるのが大変だった。

どっと疲れが押し寄せてきたこともあり、マリーベルはベッドに入るとすぐに深い眠りへと誘われた。



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