婚約者候補は辞退させてくださいませっ!

13

「あれ、誰か私の靴知らないかー?。」
「あ、俺のもない。」


「う‼︎ なんだこのスープは⁉︎ まずい」
「だよな。いつもと味が違いすぎる、僕も残したよ。」


「大変! 急がないと遅れてしまう」
「もう誰よこんなことしたのはー」


神殿内の至る所で軽い悲鳴があがる。
今日は朝から騒がしい。

その騒めきは、風に乗ってマリーベルの室内にまで届いていた。

朝から賑やかね、何かあったのかしら。

私はぎこちない手つきで、身支度を整え終えると扉を開けて驚きの声をもらす。



「っ!きゃっ!」



驚いて思わず尻もちをついてしまったわ。



「花…?」

扉の前には、沢山の花が山積みにされていたのだ。

花を置く習慣でもあるのかしら?

昨日受けた説明の内容を、思い起こすも分からない。

不思議に思いながらも、積まれた花を手に取ってみる。

「きれい」



「マリーベルさま?どうされたのです?
この花はいったい…?」

通りがかったニコライに、マリーベルは挨拶をする。

「ニコライさま、おはようございます。
私も驚いてしまって。こちらでは扉の前にお花を置く習慣でもあるのですか?」


「いえ、そんな習慣はありません。マリーベルさま、他に何か変わったことは?
何もありませんか?」

ニコライは困惑の表情を浮かべている。

「え?ええ。多分何もないと思いますわ」

ニコライさまどうしたのかしら。

「そうですか。特に害はないようですので、花は後ほど片付けましょう。

今朝は、神殿内でトラブルが色々とありまして…

神官長の所へ、報告に行かなければならないのですが。

マリーベルさまをお一人にするのは心配なので、一緒に来てくださいますか?」


ニコライはそう言い終えると、マリーベルの手を取り歩き出した。

突然触れられた手に動揺する。

急激に手が熱を帯びる。

こんな風に男性から手を握られたのは初めてだった。

淑女としてはあるまじき行為。

でも、不思議と嫌ではなかった。

チラチラと視線を手に向けつつも、ニコライの速度に合わせて必死に早歩きをする。




「あの、ニコライさま? そんなに慌てて、どうされたのです?」

「杞憂だとよいのですが……侵入者かもしれません」

「えぇ⁉︎」

緊急事態かもしれないというのに、侵入者よりも私は繋がれた手の方が気になっていた。

別にニコライさまには他意はないはず。
そう分かってはいるのだけれど。
少し残念に感じてしまう。

昨日お会いしたばかりなのに、なんだか変な気持ちだわ。

ドキドキしていると、あっという間に神官長さまの部屋に辿り着き手を離される。


離れた手の温もりが、名残り惜しい。

「神官長、ニコライです。至急ご報告したいことがありまして。マリーベル様もご一緒です。」

扉越しに用件を伝えると、中から入室の許可の声が聞こえた。

私はニコライさまと共に入室した。

神官長は窓際に佇んでいた。
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