婚約者候補は辞退させてくださいませっ!
14
えっと…どなただったかしら。
確かアーサーさまとご一緒の所を、お見かけしたことがあるわ。
ダメだわ、名前が思い出せない。
いつもなら、エレナがそっと教えてくれるのだけど。困ったわ。
お嬢様は、何も心配する必要ありません、といつも守られていたけど。
名前を覚えていないなんて、失礼になるわ。
やはり、これからはもっといろんな事を覚えていこう。
とにかく、この状況を乗り越えてからがんばろう。
そうだわ、こういう時は、会話の中から読み取りましょう。
意を決して、名前を覚えていないことを悟られないように声をかける
「お久しぶりです。」
「これは、ビル殿ではありませんか。」
ニコライは中央の人物に声をかけていた。
なるほど、あの方はビルさまとおっしゃるのね。
少しの間だけでも、忘れないように気をつけないと。
ビルさま、ビルさま、ビルさま、
大丈夫、覚えたわ。
心の中で必死に復唱するマリーベルを、
背中に隠すようにしてニコライは前へ出る。
「ニコライ殿は、そう言えば神殿に勤めておいででしたね。」
「ビル殿は、どうしてこちらへ?」
「こちらで何やら騒ぎがあったと伺いまして、こうして騎士団の者を連れて参りました。」
「おかしいですね、今から報告に向かおうとしていましたのに。
まるで、最初から知っていたかと思われるような速さですね。
その報せはどこから?」
ニコライさまは怪訝な顔をして問いかける。
「それはお答え致し兼ねます。」
ビルは澄ました顔で即答する。
「独自のルートがある、と言うことでしょうか?
この神殿に、王家のスパイがいる可能性を考えなければいけませんね?
そうなると、王城へ抗議することになりますが?」
ビルは不敵な笑みを浮かべて、ニコライを見つめる。その視線を真っ向から見据えて、怯むことなくニコライも応じる。
「スパイ? はは、物凄く飛躍した考えですね、ニコライ殿。我々だって、そんなに暇ではありませんよ。
それとも、何か探られて困るような事がおありなのでしょうか?」
「気になるのなら、ぜひこの機会にでも色々とご覧ください。別に困ることはありません。そちらと違って」
「ほぉ、そうですか、それはありがたい」
腹の探り合いをする二人には、近づき難い雰囲気が漂っていた。
愛想笑いをしているのが分かる。
罵声を浴びせてくるアーサー様の側にいても、いつも微動だにしないこの方━━ビルさまは別の意味で怖い。
特にあの目が、笑っていない所。
感情的なアーサー様と無表情なビルさま。
どちらからも私は、威圧感を感じる。
ダメだわ……この空気感に耐えられない。
ニコライさまには申し訳ないけれど、一人で部屋に戻ってもいいかしら。
私はそっと気づかれないように、その場から遠ざかろうとした。
ゆっくりと後ろに下がろうとした折り、バランスを崩してよろめいてしまった。
これは転ぶわ!
「⁉︎」
転んだ衝撃に備えて、目を閉じていたけれど、予想していた痛みが襲ってこない。
確かアーサーさまとご一緒の所を、お見かけしたことがあるわ。
ダメだわ、名前が思い出せない。
いつもなら、エレナがそっと教えてくれるのだけど。困ったわ。
お嬢様は、何も心配する必要ありません、といつも守られていたけど。
名前を覚えていないなんて、失礼になるわ。
やはり、これからはもっといろんな事を覚えていこう。
とにかく、この状況を乗り越えてからがんばろう。
そうだわ、こういう時は、会話の中から読み取りましょう。
意を決して、名前を覚えていないことを悟られないように声をかける
「お久しぶりです。」
「これは、ビル殿ではありませんか。」
ニコライは中央の人物に声をかけていた。
なるほど、あの方はビルさまとおっしゃるのね。
少しの間だけでも、忘れないように気をつけないと。
ビルさま、ビルさま、ビルさま、
大丈夫、覚えたわ。
心の中で必死に復唱するマリーベルを、
背中に隠すようにしてニコライは前へ出る。
「ニコライ殿は、そう言えば神殿に勤めておいででしたね。」
「ビル殿は、どうしてこちらへ?」
「こちらで何やら騒ぎがあったと伺いまして、こうして騎士団の者を連れて参りました。」
「おかしいですね、今から報告に向かおうとしていましたのに。
まるで、最初から知っていたかと思われるような速さですね。
その報せはどこから?」
ニコライさまは怪訝な顔をして問いかける。
「それはお答え致し兼ねます。」
ビルは澄ました顔で即答する。
「独自のルートがある、と言うことでしょうか?
この神殿に、王家のスパイがいる可能性を考えなければいけませんね?
そうなると、王城へ抗議することになりますが?」
ビルは不敵な笑みを浮かべて、ニコライを見つめる。その視線を真っ向から見据えて、怯むことなくニコライも応じる。
「スパイ? はは、物凄く飛躍した考えですね、ニコライ殿。我々だって、そんなに暇ではありませんよ。
それとも、何か探られて困るような事がおありなのでしょうか?」
「気になるのなら、ぜひこの機会にでも色々とご覧ください。別に困ることはありません。そちらと違って」
「ほぉ、そうですか、それはありがたい」
腹の探り合いをする二人には、近づき難い雰囲気が漂っていた。
愛想笑いをしているのが分かる。
罵声を浴びせてくるアーサー様の側にいても、いつも微動だにしないこの方━━ビルさまは別の意味で怖い。
特にあの目が、笑っていない所。
感情的なアーサー様と無表情なビルさま。
どちらからも私は、威圧感を感じる。
ダメだわ……この空気感に耐えられない。
ニコライさまには申し訳ないけれど、一人で部屋に戻ってもいいかしら。
私はそっと気づかれないように、その場から遠ざかろうとした。
ゆっくりと後ろに下がろうとした折り、バランスを崩してよろめいてしまった。
これは転ぶわ!
「⁉︎」
転んだ衝撃に備えて、目を閉じていたけれど、予想していた痛みが襲ってこない。