婚約者候補は辞退させてくださいませっ!
なぜか、逞しい体に抱きしめられているような感じがする。
いやだわ、そんな経験もないのに。妄想ばかりしてどうしたのかしら。

皆さんの前でとんだ醜態を晒してしまった。


目を開けるのが恥ずかしい。 
いっそのこと、このまま気を失ったふりをしようかしら。


あざとい考えがよぎったものの、現実を受け入れるべく、おそるおそる目を開ける。

「!」
「マリーベルさま、大丈夫ですか?」

眼前には心配そうに覗き込むニコライ様の顔。

近い、近い、近いですっ


私はニコライ様に支えられていた。

どうして気づいたのだろう?

私はニコライ様の後ろにいたのに。

あまりに突然のことで、

恥ずかしくて体温が急上昇する。

「マリーベルさま、お顔が赤いですね、熱でもおありなのではないですか? 部屋までお運びします。」


そう言うとニコライは、マリーベルを横抱きにする。

「あの、だ、だ、だ、大丈夫です!」

いったいどういう状況なのか、異性と密着した状態に戸惑い心臓がバクバクする。

私は、とにかく下ろしてくださいと懇願する。

「大丈夫とは思えません。心配なので。
ということで、ビル殿、話は後ほど応接室で。」

ニコライは、マリーベルを抱えたまま颯爽と歩き出した。

「ひぃ」

恥ずかしくて思わず変な声が漏れる。

下ろしてもらうことを諦めて、両手で赤くなった顔を隠すように覆っていた。

「ニコライ殿!マリーベル様にそのように触れてはなりません!我々がお部屋までお連れ致します。その方は━━」



「私がこのままお連れした方が早い」

ビルの言葉を遮るように、振り向いてニコライは射抜くような視線を向けた。

一瞬怯んだビルをその場に残して、
ニコライはマリーベルを連れ去る。


「まぁ、マリーベルさまが抵抗されていないようなので、今回は目を瞑りましょう。こんな事が知られたら、我々の首が飛ぶ。」


不穏な言葉が聞こえて、心配になる。
ニコライさまは大丈夫かしら…

手の隙間からそっと様子を窺う。

「ふふ、マリーベルさま、こっそり見られるのは恥ずかしいですね。どうか、私に寄りかかってください」

ニコライはマリーベルにしか聞こえないように、小声で話しかけた。

ただでさえ距離が近いのに、ニコライ様の息遣いまで感じられる。

耳がっ、耳元で、囁かれてはっ

恥ずかしさから首をぶんぶん横に振って、両手に顔を埋める。

それから部屋に着くまで、ずっと目を閉じていた。

あわあわするマリーベルの様子を見て、くすりとニコライは笑う。


なんだか悪い気はしない。








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