婚約者候補は辞退させてくださいませっ!
周囲に控えている者達が、即座に駆け寄ってくる。
火傷でもしていたら大変だ。まぁ、そんなことがないことを私は知っているが。

ジャクリーン嬢に、タオルを渡すよう指示をだす。

「まぁ、私としたことが。
うっかり、手が滑ってしまって。
アーサー様、ドレスが濡れてしまいましたわ。
こんな状態では楽しめませんわ。
どこかで着替えたいので、ご一緒に部屋まで案内してくださいませんか?」

「アーサーさま、控え室までご案内されますか?」

側仕えのローガンが問いかける。

「いや、その必要はない」

私はジャクリーン嬢に向かい、別れの挨拶を交わす

「ジャクリーン嬢、確かにこんな状態では楽しめませんね。私としても、こんな出来事があった後に引き留めるのは偲びない。今日はこれで失礼しよう」

ローガンに、ジャクリーン嬢を馬車まで案内するように指示をだす。


「え?そんな! アーサーさま、やっぱり大丈夫ですわ。あのお待ちになって!」

ジャクリーン嬢は、私を引き止めようと近づいてきた。

はあ、仕方ない

「ジャクリーン嬢、流行に敏感なあなたをこのままにしておくのは心が痛い。どうか完璧な装いでまたの機会に。」

あくまで紳士的な振る舞いに見えるように、ジャクリーン嬢を見つめる。

私の顔を見て、急にしおらしくなるジャックリーン嬢。

この貼り付けた笑顔に気づかないのか。
明らかに嘘くさい微笑みなのに。

まぁ、彼女程度に気づかれるようなら、王族など務まらないがな。



「アーサー様が、そこまでおっしゃるのなら……失礼しますわ」

私を、引き留めようと伸ばしかけた手を、今度はゆっくりと手の甲を見せる状態で私へと差し出す。


何も気づかないふりをして、言葉だけで挨拶を交わして、その場を立ち去る。

例え挨拶だとしても、彼女の手に触れるなどごめんだ。

そろそろ立ち去ったか。

振り向いて、ジャックリーン嬢の後ろ姿を観察する。


不貞腐れたジャクリーン嬢は、こんなはずじゃないわ、と周囲に八つ当たりしながら去って行った。
 
やはりな

ジャクリーン嬢が、何か仕掛けてくるのは分かりきっていた。


わざと紅茶をこぼして、室内で2人きりになりたかったのだろうが。


既成事実でも作ろうと思ったか……詰めが甘いな



はぁ、次はレイチェル嬢か。

「皆、すまない。すぐに片付けて新しい物を用意してくれ」


私はまた先程の席へと腰掛ける。


 
この場所からは、庭園の入り口までよく見える。



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