婚約者候補は辞退させてくださいませっ!
なんだか神殿への体験というよりも、淑女教育だわ。

でも、ここでは、お嬢様の代わりに私がしますから、と誰かに止められることもない。

気になったことは、自分で本を探して調べることもできる。

アーサー様のお茶会や、夜会や、何かの招待状に頭を悩ませる必要もない。

書類作業をしたり、図書室へ行ったり、自由に過ごせる。

ここでの生活は、とても居心地が良かった。


今日も任された書類の計算を黙々とこなす。

えっと、んん? 

これは…初めてみる書類だわ。 

「ニコライ様、こちらはどのように処理したらよろしいでしょうか?」

「あぁ、こちらは、まずこの部分の金額を、こちらの書類に記入致します。

そして、その金額と、こちらの金額に誤差がないのかを確認してください。

誤差があることはありません。
万が一あった時は、大概書き間違えだと思うので、もう一度よく見直されてください。」


「誤差があることはないと、お聞きして安心しましたわ。」

私はニコライ様にお礼をお伝えして、作業にとりかかった。

うーん。なんだか0が多いわね。

間違えそうだわ。慎重に記入をしましょう。

00…500…
これは00…900…
00…4500…

なんだかキリが悪い数字ばかりね。
えっと、こちらの金額と誤差がないかを確認、と。


あら? おかしいわ。金額が違う。
きっと、書き間違えたのね。
もう一度ゆっくりと確認しましょう。

うーん…

やっぱり違うわ。


マリーベルは隣で作業するニコライへと質問する。

「あの、ニコライ様、少しよろしいでしょうか」

ニコライ様は作業の手を止めて、こちらに向き合う。



「こちらの金額なのですが、誤差がありますの。確認していただけますか?」


私は、書類をニコライ様に手渡す。

「おかしいですね……少々お待ちを」


書類を受け取り確認するニコライの表情が、段々と険しくなっていく。

書類をもう一度よく見た後に、ため息をつく。

「ニコライ様?」

「失礼しました、マリーベル様。
こちらは、神官長にお渡しする書類でした。

こちらの書類のみ神官長担当だったのに、手違いで紛れてしまったようです。

私としたことが……申し訳ありません。

こちらは、大丈夫ですよ。

この書類は、私が後ほど神官長にお渡しします。

マリーベル様は、残りの書類をお願い致します」


ニコライはその書類を、別の書類ケースに保管する。

「はい、では、こちらの書類を処理致しますね」

私は言われた通りに残りの書類作業に取り掛かった。

でも、先程の書類のことが何故か妙に引っかかった。

ニコライさまが大丈夫、と言われていたのだから、きっと大丈夫よね。

考えても仕方ないわ。
集中、集中。
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