婚約者候補は辞退させてくださいませっ!

29

本日は無理をお願いして、神殿への滞在期間中にも関わらず王城へと参上した。

アーサー様には事前にお手紙で、面会の約束をお願いしている。

はぁ、久々だわ

まさか自分から進んで来る日が訪れるなんて、思いもしなかった。


久々にアンとエレナに会えたのは嬉しいけれど。



それも束の間の喜び。

室内へ侍女の入室許可は、受け入れてもらえない。

「久しぶりだな、マリーベル」

室内で待機していると、アーサーが入室してくる。

相変わらず、眉間に皺を寄せている。

その顔を見た瞬間、身体が硬直する。



氷のような空気が張り詰めていた。


「それで? マリーベル、お前の方から連絡など珍しいこともあるものだな。

ところで……何故なんの断りもなく神殿などへ行った?」

アーサー様は食い入るように見つめてくる。

開口一番の問いが、神殿のこと?

やっぱり、伝えておくべきだったのでしょうか……

「ち、父に、連絡を…お願いしましたが……」

こちらを凝視するアーサー様の視線が痛い。


ダメだわ…やっぱり怖い


「私は、マリーベルの口からなぜ連絡がなかったのかと聞いている。
神殿など、お前が足を入れる場所ではない!
マリーベルは、私の側で━━」

「そ、そうやって許可してくださらないと思ったからです! 神殿は、神殿に勤めている方達は素晴らしい方達ですわ」

神殿を遠ざけようとすることに対して、無性に嫌な気持ちになった。

アーサー様の発言を思わず遮るほどに。


マリーベルが自分の発言を遮ったことに対して、アーサーは虚を突かれる。

「━━素晴らしいだと?(ニコライなのか……)」

ドンッといつもの如くテーブルを叩くアーサー。


「ヒィッ」

「アーサー様、テ、テーブルを叩くのはおやめくださいませ」

その怯えた様子を見て、アーサーは言葉を続ける

「マリーベル、お前は、そのままでいい!

そうやって……怯えた様子が(かわいい)……

そんなに、神殿に行きたかったのか?

なぜ?」


「ア、アーサー様、おっしゃったではないですか。

か、感謝するように、と。神殿で過ごすうちに、

私は、今までの自分の生き方を反省しました。

皆様に感謝する気持ちが芽生えました。

誰かの役に立ちたい、と思える思いやりの気持ちも持ちました。


愛情は……、まだ、よく、分かりませんけれどっ」


「もうその件は良い」

「え?」

「はぁ。最後まで言わないと分からないのか。以前私が言った事だ。もうその件は忘れろ‼︎ そんな事よりも━━」

「どう言うことでしょうか」

少しは認めてくださるかと、一瞬でも思った自分が愚かだった。

結局、アーサー様の言葉に振り回されただけ。


努力したことが、一瞬でなかったことにされた気がして、またも言葉を遮る。

こんな風にはっきりと自分の気持ちを伝えるのは、初めてだ。

「私は、自分の噂を払拭するために神殿へ赴きました。
 そこでは、噂など関係なく接してくださる方もいて。

ニコライ様とおっしゃるのですけれど、その方より色々と学ばせていただきまして━━」


「ニコライとはどんな関係だ?」

今度はアーサーがマリーベルの話を遮る。

「え? 二、ニコライ様は、尊敬できる方です。
物覚えの悪い私にも、優しく丁寧に教えてくださいます。
とてもお世話になっている方です。」

「世話に? 随分と慕っているような口ぶりだな?
お前は優しくされると、誰にでも靡くのか?

それとも、ニコライに口説かれでもしたのか?神殿勤めが聞いて呆れるな」


「く、口説かれたりしておりません‼︎」


いくらアーサー様でも、ニコライ様のことを悪く言うのは許せないわ。

私はいつも怯えてばかりだった。

だって怖くて、何も言えなかったから。



でも、このまま何も言わないなんてできない。


ニコライ様は、私なんかとは違う。

とても素晴らしい方だから。

こんな誤解をされたままなのは耐えられない。

マリーベルは、意を決してアーサーを真っ直ぐに向かいあう。


いつもなら椅子の背に寄りかかるくらいに怯えるマリーベルなのに、毅然とした姿に戸惑うアーサー。

「どうした?マリーベル」

「━━てください」


「ん?なんと言った?」

「アーサー様!取り消してください!」

マリーベルは勢いよく、はっきりと言葉に出す。

「アーサー様、私のことは何と言われようと構いません。

ですが、ニコライ様のことを、それも本人のいないところで、貶めるような発言はお控えくださいませ」

マリーベルは頭に血が昇っていて、まるで別人のように言葉を紡ぐ。

「アーサー様、おっしゃいましたよね?
せめて普通になれと。

私は、変わろうと、努力しようとしているのです。
時間をかけても無理かもしれません。

それでも、自分自身を変えたいとそう思えるようになったのは、ニコライ様に出会えたからです。

ニコライさまは、決して私を口説くような不誠実な方ではありません。素晴らしい方です。

そんなニコライ様の妹のミシェル様も素敵な方です。

なので、どうか、アーサー様、もう苦しまないでくださいませ。

いつも眉間に皺を寄せていらっしゃるのは、私と会うのがお嫌だからでしょう?

父から何か言われたのでしょうけれど、私が何とかいたします。

ご自分の気持ちに正直になってくださいませ。




私は、お二人のお邪魔になりたくはないのです!

本当の悪女には、なりたくありません。


何度も申し上げていますように、この婚約のお話しは辞退させてくださいませ。


私は、いつでもアーサー様の味方です。

アーサー様、どうかミシェル様とお幸せに。


し、失礼致します。

き、今日の数々のご無礼はどうかご容赦くださいませ。もしも気が収まらないようでしたら、責任は家ではなく、どうか私個人に留めてくださいませ」

急に我に返ったマリーベルは、早急に退室した方がいいと判断する。

礼儀など無視して、一目散に駆け出した。


「待て、待て、待て‼︎ マリーベル‼︎
ちょ、どう言う意味だ?」


アーサー様の悲痛な呼び止める声が響く。

カッコつけて言い切ったものの、お咎めを受ける覚悟がまだ出来ていない。

今日は、このまま見逃してくださいませっ
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