婚約者候補は辞退させてくださいませっ!

37

「んん、ここは?」

マリーベルはパチリと目を開けると見慣れない天井に戸惑う。

慌ててガバリと上体を起こす。
マリーベルは見慣れないベッドに寝かされていた。

服装に乱れがないかを確認して、ほっと安堵する。

私はどうしたのでしょう?

たしかジャクリーン様とレイチェル様と馬車に乗って……

「った、痛い」

思い出そうとするとこめかみの付近がズキンと痛む。

なぜお二人が私を?

誰もいない室内を見まわすと、急に心細くなる。

ゆっくりとベッドから足を下ろし、立ちあがろうとした時だった。

ガクンと視界が揺れてその場に崩れ落ちる。


「力がおもうように入らないわ。どうしたのかしら」


「大丈夫ですか?」


ガチャリと扉が開かれた音がすると、颯爽と男性が駆け寄ってきた。


低いバリトンボイスの声色で呼びかけられたかと思うと、マリーベルを抱き上げてベッドへと横たえる。

「やめて、くださいっ、大丈夫ですからっっ」


マリーベルは見知らぬ男性に抱き上げられて、嫌悪感を露わにする。

ゾワゾワと身体中に鳥肌が立ち、不快で仕方なかった。

触らないでっ!


ニコライ様に触れられた時とは違い、拒否反応を起こしていた。


ゴツゴツとした硬い胸板も意図せずに感じてしまい、触れられた箇所全てを洗い流してしまいたい気分になる。


私に触れていいのはニコライ様だけ、

触れてほしいのはニコライ様。

それ以外の男性には触れられたくない。


マリーベルは、そこで、初めてその男性と二人きりだということに思い至る。


底知れない不安に駆られた。


「そんなに警戒しないでください、マリーベル嬢。何もしませんから。ですが……噂に聞いてはいましたが、実にお美しい。あぁ、申し遅れました。私はユーリ・ロゼア。ロゼア国の第二王子です。お見知りおきを」


言い終えたかと思うと、ユーリはマリーベルの手の甲にそっと口づける。

「ひゃあ!」

マリーベルは、手の甲を慌てて引き離す。

「おや、こういうことに慣れていないのですね?初心な所もかわいらしいですね。どうでしょう?私にもチャンスをいただけませんか?あなたを振り向かせたい。

あぁ、身体がおつらいのですね。まだ薬が抜け切れていないのでしょう。もう少し眠られるといいでしょう。さぁ」


サラサラとしたアッシュグレーの髪をしたユーリは、マリーベルをベッドに横たえると、あろうことかマリーベルの上に覆い被さる。


「⁉︎」


あまりのことに声も出せずマリーベルは、ドン‼︎っとユーリを力の限り押し退ける。


が、ビクともせずユーリはその翡翠色の瞳でマリーベルを見つめる。

マリーベルは、ユーリの瞳の中に自分が映り込むのも耐えられずジタバタ暴れる。

「はは、そんなに怖がらなくても、本当に何もしませんよ。ただ、寝かしつけてさしあげようかと」


その体制のままユーリはマリーベルの頭を優しく撫でる。

「いや!」


マリーベルは知らずに涙を流していた。

「すみません。なかせるつもりはなかったのですが」

動揺して力が緩んだユーリを、マリーベルは死に物狂いで押し退けた。

「おっと」

バランスを崩すようにユーリがマリーベルの上から横へと移動する。

マリーベルは、一目散に扉の外へと駆け出した。


「まだ走るのは無理だ!」

というユーリの声を無視して、必死に廊下を駆けて行く。







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