狐の婿殿と鬼嫁様
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この大型ビルディング施設(高さより横幅が長い)の屋上は、小さな公園と家庭菜園になっている。もちろん食料品は大部分が購入や支給されるのだが、どちらかと言えば「人間的な保養・趣味」のために、こんな場所がある。
鬼の子供たちは、ここでプチトマトやら朝顔やらを植えるのが恒例の情操教育。子供用の図書室もあるし、勉強を教える教員や医者もいる。寄宿学校みたいなもので、必ずしも非人間的に扱われているのではなかった。
(子供のときは「閉じ込められている」感じの閉塞感がして、「早く自由に外に出歩きたい」とばかり思っていたが)
だが、ハイティーンの二十歳も近くなって、自由に施設の敷地から外の町を出歩けるようになってみると、別にあながちに虐待されていたわけでもないのだと気づく。
住環境なども中の上のマンションくらいのものだったし(あまり贅沢・丁重にしすぎても実際のメリットはほとんど少なく、かえって人間が惰弱になるだけ)、日々の食事の献立などにしても、そこいらの食堂や手頃なレストランと比べて遜色ない(量も足りていた)。衣服も、決まった学童向けの制服・規定服ではあったが、防衛軍や警察で使われる布地やメーカー製品なのだ(へたな私服より上等なくらい)。映像番組なども限られていたけれど、そこはチャイルドロックと大差がない。クリスマスや正月には関係者の大人たちがサンタクロースやナマハゲしていたし、定期的に遠足などの行事もあった(大人どもも楽しんでいた)。
(あいつら、バカなことしやがって)
これは、後輩のワルガキ二匹のことではない。
古い同年代の、元友人のことだ。逃げて反政府勢力ゲリラやミュータント・ギャングの一味になってしまった奴らが、何人かいた。そのことではセロは今でも少なからず気に病んでいたり、責任をも感じている。
もっとあいつらと話して、わかっていて、引き止めていたら。
しかも追っ手にかかった味方戦闘員の「蠍(サソリ)の騎士」が殺そうしたのを、セロが感情的な理由で妨害したことで、逃げられてしまったことまである。あのときサソリは「殺す」と言ったしそのつもりだったかもしれないが、もし邪魔をしなければ重傷だけ負わせて捕獲できたかもしれない。あのとき殺していれば、逃げて「悪鬼」になり、人間や世の中に危害を加えるようなことはなかったはずだった。
その中には仲の良かった男友達だけでなくて、初恋相手の女の子もいた。セロを誘おうとこっそり戻ってきたのを断り(上手く話せば引き留められたかもしれない)、彼女を殺そうとした「蠍の騎士」と戦って妨害して(もう一人の逃げた友人がついてきていた)、結果として始末できたところを取り逃がしてしまった。彼らは「悪鬼」になって、今でも人を殺し続けている。
(今年のプチトマト、黄色の品種なのか)
かつて自分やあの二人がプチトマトや朝顔を植えた屋上の家庭菜園に、今はあの小さなワルガキどもが新しい品種を植えている。
この大型ビルディング施設(高さより横幅が長い)の屋上は、小さな公園と家庭菜園になっている。もちろん食料品は大部分が購入や支給されるのだが、どちらかと言えば「人間的な保養・趣味」のために、こんな場所がある。
鬼の子供たちは、ここでプチトマトやら朝顔やらを植えるのが恒例の情操教育。子供用の図書室もあるし、勉強を教える教員や医者もいる。寄宿学校みたいなもので、必ずしも非人間的に扱われているのではなかった。
(子供のときは「閉じ込められている」感じの閉塞感がして、「早く自由に外に出歩きたい」とばかり思っていたが)
だが、ハイティーンの二十歳も近くなって、自由に施設の敷地から外の町を出歩けるようになってみると、別にあながちに虐待されていたわけでもないのだと気づく。
住環境なども中の上のマンションくらいのものだったし(あまり贅沢・丁重にしすぎても実際のメリットはほとんど少なく、かえって人間が惰弱になるだけ)、日々の食事の献立などにしても、そこいらの食堂や手頃なレストランと比べて遜色ない(量も足りていた)。衣服も、決まった学童向けの制服・規定服ではあったが、防衛軍や警察で使われる布地やメーカー製品なのだ(へたな私服より上等なくらい)。映像番組なども限られていたけれど、そこはチャイルドロックと大差がない。クリスマスや正月には関係者の大人たちがサンタクロースやナマハゲしていたし、定期的に遠足などの行事もあった(大人どもも楽しんでいた)。
(あいつら、バカなことしやがって)
これは、後輩のワルガキ二匹のことではない。
古い同年代の、元友人のことだ。逃げて反政府勢力ゲリラやミュータント・ギャングの一味になってしまった奴らが、何人かいた。そのことではセロは今でも少なからず気に病んでいたり、責任をも感じている。
もっとあいつらと話して、わかっていて、引き止めていたら。
しかも追っ手にかかった味方戦闘員の「蠍(サソリ)の騎士」が殺そうしたのを、セロが感情的な理由で妨害したことで、逃げられてしまったことまである。あのときサソリは「殺す」と言ったしそのつもりだったかもしれないが、もし邪魔をしなければ重傷だけ負わせて捕獲できたかもしれない。あのとき殺していれば、逃げて「悪鬼」になり、人間や世の中に危害を加えるようなことはなかったはずだった。
その中には仲の良かった男友達だけでなくて、初恋相手の女の子もいた。セロを誘おうとこっそり戻ってきたのを断り(上手く話せば引き留められたかもしれない)、彼女を殺そうとした「蠍の騎士」と戦って妨害して(もう一人の逃げた友人がついてきていた)、結果として始末できたところを取り逃がしてしまった。彼らは「悪鬼」になって、今でも人を殺し続けている。
(今年のプチトマト、黄色の品種なのか)
かつて自分やあの二人がプチトマトや朝顔を植えた屋上の家庭菜園に、今はあの小さなワルガキどもが新しい品種を植えている。