狐の婿殿と鬼嫁様

第六話 悪鬼の魔女姫ミア

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 あの悪魔みたいな女、ミア。
 かつて子供だったときの親友のラロと逃亡、脱走した、初恋の少女(知っていたのは女の子だった時分のことだ)。分かれて離れ離れになってから様々な理由で悪に染まったのか、それとも最初から性悪だったりそういう資質があったのか。
 俺(セロ)に愛憎の両面でなのか、思いを残したり執着しているらしい。誘いを拒否したことや、そのときの経緯でミアと一緒に逃げたラロが死んだことなどでも(ラロは彼女に惚れ込んでいたし、ミアもまんざらでなさげだった)、めちゃめちゃに恨んで根に持っているのだそうだ。
 行方不明になって三年後くらいに俺宛の「ホームビデオ」を送りつけてきた。実際に実物の中味を確認したのは、さらに数年後だったのは、大人たちの配慮だ(とても若すぎる少年に見せられるような代物ではなかった)。
 ワルの仲間のミュータントたちと人肉バーベキューしながら乱交パーティー。様子からして、違法な麻薬でガンギマリ(鬼なら普通の人間よりも薬物への耐性もある)。俺は絶望しながら最後まで見続けて射精までしていた。圧倒的な敗北感と苦悩に苛まれて、あのときから女性不信に陥って今でも蔑視傾向があると思う。
 捕獲や処理されたとは聞かないし、死体も見つかっていないから、まだミアは生きていて悪事を重ねているのかもしれない。なにしろ鬼の力を維持する「酵素剤」の原材料は人間の血肉から抽出・精製された特殊成分で、直接に人間を捕食することでも得られるという(ただしアレルギー体質になって太陽光などに弱くなる)。「酵素剤」を得られない逃亡者・犯罪者の立場になれば、必然的に人肉食せざるを得ないはずだ。
 古代の滅びた原生種の鬼(突然変異のミュータント人種)は、だから人間を襲って食べたのだろうが、現在の彼ら(セロなど)は「改良された復刻版」である。新規発生の新しいミュータント種族たちの異常な凶暴性や攻撃性も、古代の鬼と似通った原因や理由があるとされている。

(ラロ。あのときお前が死んだのは、あんな女のためだったのか?)

 あの哀れな、純粋で冒険心に富んだ幼き日の友人は、あれでも賢かった。一時的に悪に染まっても、本人がバカらしさに気づけば、説得して投降させたり自分で悪事を止めたかもしれない。だが、あの女を逃がすために死んでしまった(俺だって一時的に協力して「蠍の騎士」の師範から半殺しにされた)。
 思い出すだけで憂鬱になってくる。
 それでも気分がいくらかなりとも楽になっているのは、あの鈴村夕梨花を知ったからか。優しくて善良な女(しかも美人)がこの世にはちゃんとすると実感できたおかげ。周りの女性たち(成年者が多いが)もそこまで悪人ではないと、頭では薄々に思いながらも、ミアによるトラウマでそのことをあまり強くは納得できずにいたからだ。
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