狐の婿殿と鬼嫁様
第八話 狐の嫁と鬼のアニキ ※第一章(完)?
1
バーベキューのための打ち合わせで、狐グループの経営する軽食喫茶店で集まることになった。私たち姉妹や家族にとっては、何度となく訪れたことがある場所だった(父の勤める製薬会社の研究部門は、狐グループとは業務上でも付き合いがある)。
私(佳蓮)と青に、姉と狐の女性(私たちとも面識があった)。鬼の代表は、まだ若く見える手袋をはめた着物の女性と、姉と同じくらいに見える青年。
(あの人が? お見舞いに来てくれたのって?)
(うん)
私と姉は、ヒソッと言葉を交わす。姉の様子や嬉しげな反応から「セロって彼だな」って当たりをつけたのだが、はたしてそうだった。青は怪訝で神妙な顔。
鬼の若大将の青年(セロ)はまず姉の様子をチラチラと興味深げに見ているから脈はありそうで、青も一瞥して品定めし(同類や同僚として関心があるのか)てお互いに僅かに不敵な感じで睨み合ったふうでもあった。
それからセロは思い出したように私をはっと見て、青に目配せする。ちょっとだけ驚いているようでもあった。
「この前のことはご迷惑おかけしました」
上品で優美に会釈する鬼の女性。
セロ横からは冷ややかに「鬼ババアがとりつくろってカマトトぶってやがる」と呟いて、指差して「この人は二世代も前の年寄りだから見た目で騙されないように」と秘密をばらす。疑う私たちに「蜘蛛の巫女だから」と再び嘲い、ババア呼ばわりされた女性は「おばさんと呼べっての、甥っ子の行儀が悪くてお恥ずかしい」とにっこり怒りの笑顔で彼の足を踏んだ。
「でも、先日のことはすまなかった。お詫びや親睦も兼ねて、ピクニックとバーベキューに招待したい。ちょうど狐の関係もあるから、いい機会だ」
視線は青に向けられ、同意を求めるようで、青も少し緊張した面差しで「うん」と頷く。
それからセロは私をもう一度見て、何か言いたげだった。言外に場違いで、呼んでいないとでも言われているようで、決まりが悪い。
「あ、と。私、妹の佳蓮っていいます。青と婚約もしてます。それでついてきちゃったんですが、もしかしてお邪魔でしたか?」
「いや、そんなわけじゃないんだ。話は聞いているし、手をかしてもらえるのは助かる嬉しい。うちのガキどもは横着なとこがあるから、そこだけ気をつけてもらえたら」
セロは少し慌てたみたいに、申し訳なさげに、私の懸念を否定した。だが、チラと青に懐疑するような目を送った。
たぶん私が疑問を顔色に浮かべたのだろう。
セロは理由を教えてくれた。
「狐の嫁さんで、鈴村の妹さんっていうから、てっきりエスパーなのかなと思っていて。それで普通の娘さんなんで驚いただけなんだ」
「青とは年が同じなんです。もしお姉ちゃんと同じ年だったら、お姉ちゃんと婚約したかも」
拗ねた顔になってしまったかもしれない。
どうせ私は凡人だから。
だがセロはこう言った。視線を青に投げて。
「五歳や十歳くらいの違いだったら、特殊な薬の療法とか冷凍睡眠(コールドスリープ)でも調整できるのに、わざわざ妹さんを選んだってことは、よっぽど気に入ったってことか? ふうん?」
青は冷静に肩をすくめた。
「夕梨花さんは、好きだけど小さいときから「お姉ちゃん」のイメージだったから」
バーベキューのための打ち合わせで、狐グループの経営する軽食喫茶店で集まることになった。私たち姉妹や家族にとっては、何度となく訪れたことがある場所だった(父の勤める製薬会社の研究部門は、狐グループとは業務上でも付き合いがある)。
私(佳蓮)と青に、姉と狐の女性(私たちとも面識があった)。鬼の代表は、まだ若く見える手袋をはめた着物の女性と、姉と同じくらいに見える青年。
(あの人が? お見舞いに来てくれたのって?)
(うん)
私と姉は、ヒソッと言葉を交わす。姉の様子や嬉しげな反応から「セロって彼だな」って当たりをつけたのだが、はたしてそうだった。青は怪訝で神妙な顔。
鬼の若大将の青年(セロ)はまず姉の様子をチラチラと興味深げに見ているから脈はありそうで、青も一瞥して品定めし(同類や同僚として関心があるのか)てお互いに僅かに不敵な感じで睨み合ったふうでもあった。
それからセロは思い出したように私をはっと見て、青に目配せする。ちょっとだけ驚いているようでもあった。
「この前のことはご迷惑おかけしました」
上品で優美に会釈する鬼の女性。
セロ横からは冷ややかに「鬼ババアがとりつくろってカマトトぶってやがる」と呟いて、指差して「この人は二世代も前の年寄りだから見た目で騙されないように」と秘密をばらす。疑う私たちに「蜘蛛の巫女だから」と再び嘲い、ババア呼ばわりされた女性は「おばさんと呼べっての、甥っ子の行儀が悪くてお恥ずかしい」とにっこり怒りの笑顔で彼の足を踏んだ。
「でも、先日のことはすまなかった。お詫びや親睦も兼ねて、ピクニックとバーベキューに招待したい。ちょうど狐の関係もあるから、いい機会だ」
視線は青に向けられ、同意を求めるようで、青も少し緊張した面差しで「うん」と頷く。
それからセロは私をもう一度見て、何か言いたげだった。言外に場違いで、呼んでいないとでも言われているようで、決まりが悪い。
「あ、と。私、妹の佳蓮っていいます。青と婚約もしてます。それでついてきちゃったんですが、もしかしてお邪魔でしたか?」
「いや、そんなわけじゃないんだ。話は聞いているし、手をかしてもらえるのは助かる嬉しい。うちのガキどもは横着なとこがあるから、そこだけ気をつけてもらえたら」
セロは少し慌てたみたいに、申し訳なさげに、私の懸念を否定した。だが、チラと青に懐疑するような目を送った。
たぶん私が疑問を顔色に浮かべたのだろう。
セロは理由を教えてくれた。
「狐の嫁さんで、鈴村の妹さんっていうから、てっきりエスパーなのかなと思っていて。それで普通の娘さんなんで驚いただけなんだ」
「青とは年が同じなんです。もしお姉ちゃんと同じ年だったら、お姉ちゃんと婚約したかも」
拗ねた顔になってしまったかもしれない。
どうせ私は凡人だから。
だがセロはこう言った。視線を青に投げて。
「五歳や十歳くらいの違いだったら、特殊な薬の療法とか冷凍睡眠(コールドスリープ)でも調整できるのに、わざわざ妹さんを選んだってことは、よっぽど気に入ったってことか? ふうん?」
青は冷静に肩をすくめた。
「夕梨花さんは、好きだけど小さいときから「お姉ちゃん」のイメージだったから」