狐の婿殿と鬼嫁様
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 ところが最大のライバルは、我が親愛なる四歳年上の姉・夕梨花(ゆりか)だった。
 青の「初恋」は、この私と仲良しの実の姉なのだから。今だって特別な感情を持って慕っていると、それくらいがわからないほどにまで私は鈍感にはなれない。その点では、青の居候時代から私は姉にライバル心があったし、姉は姉で「可愛い年下の男の子」がまんざらでなかった様子。
 この「四歳年上の女性」という、男にとって結婚相手としては微妙な年齢の差を別にしたら、私に勝算はないだろう。もし姉があと一歳か二歳若かったら、青は私でなく姉の方へ求愛に走っていてもおかしくなかったはずだ。男にありがちなマザコン心理のなせるわざなのか、子ども時代だって青は姉の夕梨花を慕って甘えていた。
 第一に二十歳前後なんて、女が一番に輝いて高値がつくような年齢。私たちは姉妹だから容姿での優位もほぼない上に、「年上のお姉さま」の色香と魅力は年頃の男の子をさぞかし狂わせることだろう。それに子ども時代なら四歳の年齢差は絶対的なほどに大きいけれども(小学生と中学生くらい違う)、青年期以上の大人やそれに近い年齢ならばごく僅かな差でしかない。おそらく青の立場からしたら姉・夕梨花は正式な結婚まではまだしも、恋愛やお付き合いの対象としては範囲内でおかしくない。
 青が私に恋人・婚約者(将来の妻)としての執着や愛情を持っていることまで、根っから疑っているわけではない。ただしその動機や理由には、幼少時に養育した私たちの父母への信頼や、姉への愛慕がある。たとえ妻や恋人でこそなくても「義理の姉と弟」として関係やつながりを望んでいるのは態度からも明白だったし、姉の夕梨花も「これで晴れて私の弟だね!」と大喜びしている。
 何せ、姉は先天的な天然ものエスパーの「霊媒」で、悪意や恐怖が「蜃気楼のような形」で見えるし、死者に喋らせることが出来る。人工的な新人類の「狐」である青とは能力的にも似たところがあったし、そういう意味でも、二人は(全く普通の凡人でしかない)私とは違う次元で相通じているところがある。
 もしも同性だったら理想的な兄弟分だったかもしれなかったが、やっぱり「男と女」。結婚までいかずとも、恋愛めいた感情を持つことや可能性までは全くには否定できないだろう。私からすると、そのことが羨ましくも妬ましくもあった。


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 それでも、適度にスリリングながらに「幸福」な関係と日々であることは否めない。
 まだ余所の女と浮気されるよりは、姉と精神的に「恋人ごっこや疑似恋愛」してくれた方が百倍も良いし(場合次第ではお裾分けくらいなら許しても良い?)、こうして家族仲が円満に超したことはなかったから。

「青君によろしくね!」

 デート用のお弁当に、バスケットに入れたサンドイッチ。朝から我が家の昼食用も合わせて、我ら姉妹でつくったもの。家を出る玄関で、姉は幸福そうに物見高い笑顔で見送ってくれた(こんな嫁さんがいたら、男は家にまっしぐらだろう)。
 私としては感謝や共感と、畏怖や警戒と嫉妬が混ぜこぜになった気持ちで、待ち合わせ場所へと足を早める。
 きっと青は、姉にも会いたがるだろうけど、それだと二人きりのデートにならない。だから本日ばかりは、家ではないお外の別の場所で会うことになっていた(家で和気藹々も悪くはないけれど、それだと居候で同居していた頃の日常が再現するだけになる)。我ながら贅沢な悩みだ。
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