狐の婿殿と鬼嫁様
2
 打ち合わせのあとの帰り道で、青少年二人は「先に帰っていてくれ」などと言いだして、違う方向に歩いて行ってしまう。さっきまで何か話していたし、不穏な空気と予感で、私たち二人があとをつけてみると、河原で喧嘩しはじめやがった。

「止めなきゃ!」

 乱闘の制止に歩きだそうとした私の手を、姉がつかんで引き留める。うろたえる私に姉は人差し指を振って微笑む。

「大丈夫だよ。遊んでるだけだから」

「で、でもっ!」

「青君は突っかかってるみたいだけど、そんなに嫌いなわけでもないみたい。セロさんも青君のことを気に入ったっぽい? オーラがさ、キャッチボールやテニスしてる人に似てるの」

 そうだった。「霊媒」エスパーの姉には、普通の人には見えないものが見えるし、わかるのだ。
 それにしたって、二人の動きは武道の試合や格闘技みたいだ。青が訓練や成長でたくましくなったのもあるだろうけれど、私にはずっと手加減していたのだと思い至る(子供のときにはよく遊びでプロレス技をかけて虐げていたから)。

(青は、「私を」選んでくれたんだよね?)

 つい一時間前に「五歳や十歳くらいなら調整できる」とセロは言っていたが、たしかに狐などの医薬秘術や先端技術を使えば、どうしても望むのであれば姉を(青と)同年齢にして結婚することもできたはずなのだ。不安や葛藤していたのが、今は狐に化かされたような変な気分になる。
 そして横にいる姉はいつになく、とても幸せそうな顔で、義弟と鬼のアニキの乱闘ごっこを眺めているのだった。
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