狐の婿殿と鬼嫁様

第二話 迷走姉妹と鬼の影

1
 とうとうキスした帰り道で、青にできるだけさりげないふうに訪ねてみた。

「どうして、お姉ちゃんじゃなくって私なの?」

 青が、私(佳蓮)だけでなく姉の夕梨花にも執着しているのは明らかだから。

「やっぱり同じ歳だから?」

「それもあるけど。夕梨花さんって、好きだけど「お姉ちゃん」のイメージだから。他の人と結婚しても、「相手が良い人だったらそれでも仕方ないかな」って思ってたし。でもお前が余所の男にとられるのは嫌。ずっと、一番何でも喋ったり一緒に遊んでたし気がおけない」

 たしかに、たしかに。
 子供のときに一番に一緒にいて打ち解けていたのは私だろう。日常にプロレス技をかけて青をおもちゃにしたり喧嘩までしていたのは、私くらいだ。そのくせ、私は心の中で「女の子としての扱い」や「親しい男としての振る舞い」を青に期待や暗黙の前提にして、あまり自覚がないままに秋波を飛ばして媚びまくってずっとアプローチの圧力をかけていたかもしれない。
 姉は年齢が四つも上だったから、子供同士では遊ぶにしても「大人や年上から遊んで貰っている」に近くなるし(特に女は精神的にも成熟が早くて大人びるから)、感覚や見方・考え方が同じレベルというわけにはいかないだろう。姉の性格からすれば苛めたり喧嘩などもしたことがないし、青も行儀が良くて素直な方だから、事もなく平穏で打ち解けながらも他人行儀のようで済んでいた。
 それでも青が、姉に憧れや親愛感を強く持っていたことには変わりはない。もし何かの拍子に迫られたり許されれば、コロンとあっさりなびくことは十分ありうる。青が結婚や占有の優先順位ではひとまず私の方だとしても、姉の夕梨花にも次点としてリーチかけたいらしい。

「じゃあさ、やっぱりお姉ちゃんも好きなのは変わらないわけよね」

「うん」

 できるだけポーカーフェイスで、ちょっとだけ意地悪な質問をすると、青は即答で肯定。
 青が姉を嫌って仲が悪いよりはずっと良いし、私だって満足だ。けれどもどこか不安や不満みたいにモヤモヤが胸にわだかまる。姉を憎いとまでは思わないが悔しい気がする。
 だから後で仕返しに、家族でお茶しているときにヘッドロックして、拳固で頭をグリグリしてやった。青は慌てた素振りだったが本心ではさほど嫌でなかったはずだ。好きな女の子から頭を小脇に抱えられて、横乳が耳に押しつけられて、本気で振りほどこうとすればできるはずなのに「わざとらしく藻掻いていた」から。

「だって、こいつって私とお姉ちゃんの二股狙いなんだよ? ちょっと懲らしめてやるの」

 そんなふうに姉の面前で報告しつつ、青との仲を見せつけたい気持ちもあって、アンビバレントな葛藤で変な行動をとってしまう。姉は面白がりながらも、ちょっと口惜しそうでもあった。
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