狐の婿殿と鬼嫁様
3
 姉が襲われたのは、あの幸福なデートの日の夕方だった。あのとき青と私(佳蓮)の三人で家を出て、道を分かれたあと、「小さな子供のミュータントやエスパー」からいきなり襲われたらしい。
 少し考えてみれば、姉は「霊媒」のエスパーなのだから、既存の人間に敵対的なミュータントたちからすれば具合が悪い存在だろう。青が居候したり関わるようになったのも、突然変異の一代目エスパーである姉や家族との相談相手や家の護衛みたいな含みもあったらしい。だが可能性や危険はこれまでにも示唆されていたのだけれど、気をつけてこそいたとはいえ、実際に危機が及ぶまでは実感がなかった。
 それに、姉は戦闘能力こそないとはいえ、悪意を探知できることで、敵や危険を避けることには長けている部類なのだ。
 事件の直後に両親と私が運び込まれた病院に駆けつけて、翌日の午後遅くには青と二人で再び見舞いに行った。この病院は政府の直轄で特殊能力の患者の専門医・カウンセラーや対テロの警備員がいる、そういう「現代風」でもあるから、自宅にいるよりも安全だろう。

「油断したかも。だけど変なのよ。エスパーやミュータントだったら、近くにいたらわかるはずだし、襲ってくるくらい悪気があるなら余計に。まだ小さな子供だったし、そんなに悪気はなかったのかも」

「襲われたのに「悪気はなかったかもしれない」なんて! その子が何にも考えてなくったって、命令した大人がいるわけでしょ?」

 私としては、姉のこういう能天気なまでのお人好しさには、苛立ってしまう。今回は無事で済んだとしても次が大丈夫とは限らない。
 病院で目を覚ました姉は傷はたいしたことがなく、命に別状あるでもない。しかし自分が襲撃された精神ショックが大きいのか、まだ不安そうな面差しをして、顔色がすぐれない。
 黙って話を聞いていた青は、何か思い当たる節があるようだった。

「その子供は、力を使うときに頭から「角みたいな光」が出てたわけか」

「知ってるの?」

「そういう奴らのことは。人によって、上手ければ隠せても、子供やフルパワーのときはそういう癖が出る奴らのことは。敵も味方でも何種類かいるらしいけど、「鬼」って名前がついてる」
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