お飾り妻のはずが、冷徹社長は離婚する気がないようです
 父はそう言ってから、心配そうに藍斗さんのほうを窺った。

「円香から我が家の借金の件は聞いていますか?」

 そういえば借金の話は藍斗さんにしていないのだった。変に気遣われるのが嫌で、自分のために使う金だと見栄を張った。

「お父さん、待って――」

「借金?」

 咄嗟に止めようとするも、もう遅い。

 藍斗さんは訝しげな顔をしてから、すぐに納得した様子でうなずく。

「ええ、その話でしたら結婚前に聞きました。大変だとは思いますが、私のほうで協力できることがあればいつでも言ってください」

「ありがとうございます。本当にお恥ずかしい話で……」

 どうしよう、藍斗さんの目が笑っていない。
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