お飾り妻のはずが、冷徹社長は離婚する気がないようです
 藍斗さんは私を見つめたまま苛立たしげに溜息をつくと、なにも言わずに車を発進させた。

 彼の苛立ちや怒りにあてられてつい言い返してしまったものの、こんなふうに反発するべきではなかったかもしれない。

 どんな条件であれ、藍斗さんは私を助けてくれた人だ。

 過去にいろいろあったとしても恩人なのだから、怒らせるような真似をするのは間違っている。

 反省すると同時に、苦い思いが込み上げてきた。

 義両親の件を考えるに、私が金銭の話をしたのは最悪と言っていいほどの悪手だっただろう。言葉にしなくても、心の中で私を軽蔑していたんじゃないだろうか。

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