お飾り妻のはずが、冷徹社長は離婚する気がないようです
 借金のためとはいえ、水商売に手を出してまで金を稼ごうとしていたとも思われてしまった。実際にそういう仕事をするつもりはなかったと、今さら言える空気ではない。

 切ないな、と思った。

 恋愛禁止の関係なのだから、むしろ嫌われるくらいのほうが円満にいくはずなのに、私はそれを恐れている。

 八年前だって、彼は私以外に好きな人がいた。もしかしたら尚美さんが言っていた人かもしれない。

 いつだって好きなのは私だけで、藍斗さんは同じ気持ちを返してくれないのに、惨めにすがりつこうとする自分が嫌だった。



 遅い時間に出たのもあって、帰宅する頃にはすっかり陽が暮れていた。

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