お飾り妻のはずが、冷徹社長は離婚する気がないようです
 ここでの食事は各自別々だし、適当にパンでも食べてさっさと寝てしまおうかと思っていたけれど。

 玄関に入った瞬間、後ろ手に鍵をかけた藍斗さんに腕を引っ張られた。

 声を上げる間もなく背中を壁に押しつけられ、逃げ道を塞がれたまま強引に唇を奪われる。

 まったく予想していなかった驚きもあるけれど、それ以上に怖くなった。

 痛いほどきつく腕を掴む手も、呼吸すら許さないと唇からねじ込まれる舌も、私が逃げないよう両足の間に割り入れられた膝も、自分では勝てない男のそれを感じさせて身体が震える。

「藍斗さん、やだ……っ」

 必死にキスの合間に訴えるも、拒めば拒むほど荒々しく舌を絡められる。

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